短編小説
□兄弟だけど 後編
4ページ/6ページ
カウンター席に近付くと、ルークに付き添うように座っている男がいた。
ユーリに気付き顔を上げたその男の顔を見れば、友人のフレンに似ていて少々驚く。
向こうは向こうで興味深そうにユーリを眺めた。
「君がユーリくん?」
「……ああ、」
その呟きにユーリは軽く答え、服のポケットにあらかじめ突っ込んであった札を男に渡す。
「わりぃな、足りなかったら立替といてくれ」
色からすると一万円札が一枚。
そして、兄が世話になったと言ってルークの肩に手を掛けた。
姿を見て、何となくほっとする。
しかし、ルークの目元が赤いのに気付いてすぐに顔を歪めた。
酒で赤いだけじゃない、
「…泣いてたのか…?」
無意識に思い当たった答えをぽつりと漏らす。
するとその呟きに、男は苦笑しながら口を開いた。
「色々思い詰めてたみたいでな、気付いたら泣き上戸に入っちまって。
…それから今日のこと、叱らないでやってくれないか。今日は俺が強引に誘っちまったんだ」
侘びるように頭を掻いた男に、ユーリは重い溜息を溢す。
「心配しなくても、そんなつもり毛頭ねーよ」
アンタに言われなくても。
飲み込んだ言葉尻が苦かった。
――思い詰めてたって、何を。
ユーリは叱るなんていう見当違いなことより、自分の知らない所で思い悩むルークに、焦燥感を掻き立てられていた。
それと同時に、ガラにもないことを思う。
悔しい、と。
そいつとルークが自分の知らない所でそんな話をしていたことが、悔しかった。
情けないが、認めるしかない。
人はそれを、…嫉妬という。
今、初めて自覚した。
.