短編小説


□兄弟だけど 後編
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鍵を掛け、家を出る。



『ごめんなユーリ、今日友達と飲みに行ってくる。でもなるべく早く帰るから!』


そう、申し訳なさそうにルークから連絡をもらった時、珍しいと思った。



酒が弱いこともあって、ルークは飲み会があってもあまり行きたがらない。


何より、子どもの頃からなにかとユーリを一人にさせないようにと気にしている傾向がルークにはあった。



『俺がずっと一緒にいて、ユーリのこと守ってやるからな!』

…なんて、笑顔全開で口癖のように言っていたルークを思い出す。



しかし今となっては立場が逆転し、どこか抜けている兄をフォローするのが自分の定石になりつつあった。


勿論、悪い気なんてしてねーけど。




家を出る前。

居間で眺めていたバラエティ番組が、いつもと違って妙に面白くなかったことを思い出す。


テレビの音量もやけに部屋に響いていた気がして、
その時改めて居間がこんなに広かったんだと知った。



ああ、あいつがいないだけでこんなにも違うのかと感心すら覚えたが、そこに喜びなんてものは欠片もない。



陰気くさい気分が嫌で飯でも作るかと思い立ったが、それもすぐに諦めた。



腹はそこそこ空いているはずなのに、何故か食う気にならない。


というか、

その時は何もする気にならなかった。



別に、料理は嫌いじゃない。家事だって。


けどそれは所詮"出来る"だけで、やる気がなければしようとも思わない。



いつも隣にいる奴がいないだけで、こんなにつまらない。



自分が何でも出来るなんてお門違いだ。


実際はルークがいないとやる気すら起こらないなんて笑ってしまう。




溜息を吐いて、天を仰ぐ。



目を閉じて脳裏に浮かぶのは、強烈な朱だけだ。



あいつが空気みたいにいつも側にいるから
こんな風に、心臓にポッカリ穴が空いたような感覚があるってことを、すっかり忘れていたように思う。





そんな事を考えているうちに、ルークが行くと言っていた飲み屋に着いた。


自分の息が上がっているのに気付き、いつの間にか走っていたんだと分かって大きく肩を落とす。



我ながら余裕がない。



けど、バカで単純であの優しい兄だけは
どうしても放っとけないんだからしょうがないと、早々に開き直った。


呼吸を整え店の中へ入る。



店員が近寄って来たが、連れを迎えに来ただけだからと断りを入れ、
カウンターで眠りこける朱に向かって足を進めた。




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