グレイセス

□痛み
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アンマルチアの里に向かう雪山の中で、敵と戦っていた。

アスベルが剣を抜き、魔物を切り伏せていく。

『後ろ!!』
ソフィが叫ぶと共に後ろを向くと、魔物が攻撃を仕掛けていた。

間に合わない!
そう思った瞬間髪がフワリと揺れた。

ドスッと音と共に、魔物は倒れる。

『兄さんは無駄な動きが多すぎます!非効率です。』

眼鏡をクイッと押して呟いた。
『すまない、ヒューバート』
今の戦闘の形状は、前線に立ったアスベルとソフィをヒューバートがフォローし、シェリアがヒューバートの後ろで詠唱をするという効率の良い攻撃方だ。

『神聖なる雫よ、この名を持ちて、悪しきを散らせ!ライトニングブラスター!』

最後にシェリアがライトニングブラスターを決め、敵を倒した。

『私たちは負けな『踏むから!踏むから!』

最後の一撃でシェリアの腕がヒューバートに当たり、眼鏡がズリ落ちたらしいヒューバートは地面に這いつくばって眼鏡を探していた。

『…教官どうだった?』
決め言葉もすんだソフィは、教官の元へさっさと歩いていき、話を聞いている。
横ではパスカルがソフィにベッタリ張り付いていた。

『あ!コレじゃないかしら?』
シェリアがヒューバートの近くで眼鏡を見付けたらしく、ヒューバートの近くにしゃがみこんだ。

『助かりました。』

『困った時はお互い様だもの、気にしないで良いわよ。』

二人は完全に油断していた。
まだ魔物が生きている事に気が付かなかったからだ。

眼鏡を掛けようとした時、パスカルが声を荒げながら叫んだ。

『シェリア!弟くん!危ないっ!!』

へっ?と、後ろを振り替えると、先程シェリアがトドメをさしたはずの魔物が腕を振り上げていた。

お互いに変な格好で語り合っていた為、受け身がとれず、今攻撃されると確実なる致命傷だった。

ギュッと目を固く閉じた二人だが、痛みはいつまで経っても訪れない。
しかし、顔に温かい何かが飛び散り、何故だか彼、アスベル・ラントの落ち着く香りに満たされていた。

『アスベル!!』
ソフィの声が上がり、続いてマリク、パスカルまでもがアスベルの名前を連呼した。

不意にソッと固く閉ざした瞳を開けると、アスベルがシェリアとヒューバートに覆い被さるように抱き着いていた。

普段の二人ならば顔を真っ赤にして、何とも言えない顔でアスベルを見るだろうが、今回は嫌な予感が頭の中を過り、動けなかったのだ。

ボケッとアスベルを見ていると、後ろでピンクのツインテールを揺らしたソフィが飛び、先程の敵を蹴飛ばした。

3人がアスベルと、名前を呼び、こちらに走ってくるのが分かったが、等の本人はピクリとも動かない。

『アス…ベル?』
シェリアがポツリと呟いた。

バランスを崩したアスベルは手前にいたヒューバートに寄りかかって崩れる。

『に、兄さん…?
どうしたんですか?』

震える手を気づかないフリをしながらアスベルを揺らした。

手に、少し粘つく液体がベッタリ張り付く感覚がする。

『…いや…冗談は止めて?…ねぇ?アスベル…アスベル!?』

シェリアが必死にアスベルを揺らし続けるが、意識が無いのであろう、アスベルはなすがままだった。

『揺らすなシェリア。
今は応急処置だ。此処は危ない。まずはあそこに避難して、傷を塞ぐぞ。』

マリクがアスベルを担ぎ上げた。
力無いアスベルは軽々とマリクに背負われる。
ヒューバートにもたれ掛かるように倒れていたアスベルを退けると、ヒューバートの軍服は赤黒く染まり、生地は湿り、重い。
立つに、立ち上がれないその体に鞭を打つように立ち上がり、重い足を必死に動かすヒューバート…

シェリアは未だに放心したままの状態でパスカルに半場引きずられるように、その場へ移動した。




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