グレイセス

□えっ…体重…?
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今私は、体重計の前で睨みをきかせていた。

数値は、減りもせず、増えもせず…と、言ったところだろうか。

『最近甘いものをよく食べていたから心配だったんだけど…良かったわ。』

ふー…と、溜息を付いて、肩の力を抜いた。

あの日、パスカルに言われた一言。
誤解よ。私は決してタプッている訳じゃないもの。

確かに…買ったばかりの下着が切れたりしたけれど、太ってなんかいないわ。

『…それに、皆が細過ぎるのよ。』

ソフィは、この前おんぶした時は見た目以上の重さではあったけれど、それは武器が重いからであって、見た目通りとても華奢。

パスカルも、自ら好んで着ているダボダボの服にキツく縛ったベルトが、嫌でもその細い腰を象徴し、美しい体型を醸し出している。

また、ラント兄弟…アスベルとヒューバートは、憎らしいことに、両方母親…ケリー様似の体型をしていて、昔から非常に細い。大人になった今も筋肉が付きにくい体質なのだろう。

教官は…うん。あれは筋肉だから仕方ないわね。それに、太っている訳じゃないわ。

『そうよ。皆可笑しいのよ絶対に。』

皆同じ物を食べているのに、体重が増えないのだ。

しかも、腹が立つ事に、アスベルやヒューバートは体重が増えないことを気にし出す始末。

こういうのは、体質の問題なのよ。
病弱だった時は私だって細かったわ。いや、今だって標準よ!!

そう言い聞かせて、旅を続けていたけれど、それは粉々に崩れた。

『あー…あたし、また体重減ってるよー…』

パスカルがボヤきだした。

………え?

『ど、どういう事?』

『それがさぁ…減らないように甘いもの沢山食べてるのに、一向に体重が増えないんだよ〜…』

『最近、パスカル体重減ってるんだって。』

続けてソフィが呟く。

『…そうなの』

『シェリア…どうしたの?』

『何でもないわよ。
ありがとう。』

辛いわ。とても辛い。
何?この私に対する嫌がらせ…

結構なショックを受けて、部屋に入ると、アスベル達が腕立て伏せをしていた。

『…一応聞くわね。
何しているの?ヒューバートまで?』

『筋肉を付けてるんだよ。
今の俺に足りないものだ。』

『どうして腕立て伏せなの?』

『それが、俺とヒューバート…また痩せたから体力作りと、筋肉をなんとか…』

『日々の鍛練が大切ですからね。』

私はしばらくアスベルを眺め、聞いてみた。

『ねぇ、アスベル…』

アスベルは動きを止めて、こちらを見上げる。

『どうした?』

『…私…太ってる?』

『え…?どうしたんだ?いきなり…?』

そう言いながらも、さっきまで私の目に視点が有ったのに、私のお腹へ視線を動かす。

『ぜ、贅肉なんて無いわよ!?』

『誤解だ!たまたま視線が向いただけで…』

『見てたでしょっ!?』


*・゚*・゚*・゚*・゚*・゚

『で、どうしたんだよ?』

『皆…最近痩せた、痩せたって言っているのに、私だけ変わらないから…』

『パスカルにこの前言われた事を気にしてるのか?』
どうせ、気にも止めていなかったんでしょうけど、女の子はそういうのに、敏感なのよ?

『タプッてなんかない…わよ。』

『…嫌いじゃないよ。』
アスベルは、プイッと、顔を背けて、呟いた。

『…アスベル…』
ありがとうと、呟こうとした時、アスベルが先に話し出した。

『体重が増えるなんて、良い傾向じゃないか?
増えたくても、増えない奴なんて沢山いるし?』

『…そうね。』

駄目だわ。
相手がアスベルなの忘れてた。

真剣にときめいた私の心と色々な意味で傷付いた私の心を返して…

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