ヴェスペリア
□幸せです。
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囚われのお姫様は金髪に青い瞳を持った王子さまに言いました。
私を此処から出してくださいと。
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その後、二人は幸せに暮らしました。
『何回読んでも素敵な話です!』
大きな木の影に座り、桃色の髪を揺らして、目をうっとりさせた少女が呟いた。
『どうしたんだ?エステル』
『ユーリ。』
エステルと名乗る少女の隣に、ユーリと言う青年は長い黒髪を揺らし、腰を落とした。
『本を読んでいたんです。』
『本か…』
『ユーリも読みます?』
エステルは頬を緩め、笑顔で微笑んだ。
その笑顔は、天使みたいにフワリとしたもの。
『いや、遠慮しておくよ。』
しかし、彼…ユーリ・ローウェルは彼女を仲間という目でしか見ていないため、返答は呆気ないものだ。
『残念です…
王子さまとお姫さまの素敵な恋のお話しなんですけど…』
『…王子さま…ね。
女って、皆そういうのに憧れるのか?』
顔を赤らめて話す彼女に少し興味を持ったユーリは聞き返した。
『はい!魔王に囚われのお姫様を救って、他の仲間たちと力を合わせて、魔王を倒す所が…本当に良かったです!!』
本の事となると、キャラ…変わるな
内心チラッと思った。
『…じゃあ、俺は…倒されるんだな。』
『…え?』
『王子さまにピッタリなのは、フレンだろ?
見た目的にも、中身も、俺は魔王役なんだな。』
冗談で言ったつもりなのだが、エステルは黙り混み、悲しそうな顔をした。
『ワリィ…冗談だって!』
『ユーリは…魔王であったとしても、やっぱりユーリです。』
『…は?』
予想外の言葉に思わず聞き返してしまった。
『ユーリは…ユーリです。』
真っ直ぐ俺を見つめる顔がある。
『それでも…』
俺は…と、弱音を吐きかけた時、それに!と、大きな声で叫んだ。
『あの時…私をあの場所から救い出してくれたのは…私に世界を見せてくれたのは…ユーリです。』
背を向けて話していた彼女は、笑顔でゆっくり振り返った。
『いつも側で守ってくれていたのもユーリです。』
『…。』
黙りこむと、エステルは、そうだ…と、呟きながら先程読んでいた本を開き、ペンで何かを書き出した。
『出来ました!!』
満開の笑顔で俺に本を渡して、読んでください!と、元気よく呟く。
『…ああ。』
不意に胸が高まった気がしたが、この気持ちに気付くのは、まだ先の話し。
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囚われのお姫さまを救ってくれたのは、金髪でも、青い瞳でもない、真っ黒な髪と、黒に近い紫色の瞳を持った青年でした。
見た目は魔王にも関わらず、民を愛し、悪を許さない正義を持ち、その為ならば、自分の手を汚すことも苦にならない…とても強い心を持った魔王。
何も知らない姫に、人を愛する気持ちを…沢山の初めてを教えてくれたのです。
姫は、魔王の仲間と共に旅を続けました。
何処が終わりか分からない、長い長い旅へ。
姫は思いました。
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『何を思ったんだ?』
『…それは…秘密です。』
貴方の側で旅を出来る、何よりも幸せで、離れたくない…と、言う気持ち。
大好きです。
END
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