新たな魂の絆を結べ

□光華に惹かれ星宿は集う
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≪神、降臨す≫


その夜、すやすやと眠る幽の傍で、騰蛇は無垢な寝顔を見つめていた。

明晴や同胞達と決別して一週間が経つ。
当初彼らは動揺と混乱に陥っていたが、やがて落ち着いてくると、騰蛇に対し自分達のところに戻るよう、しきりに説得してきた。
だが騰蛇の方も、そう簡単には納得してはくれないだろうと踏んでいたので、彼らの言葉を一々気に止めたりはしなかった。
その歯牙にも掛けない態度に、彼らは焦り、そして幽に対する憤りを更に募らせていったが、それでも害するような真似をしないのは、ひとえに騰蛇の逆鱗に触れるのを恐れての事だ。
無論騰蛇も彼らの幽に対する感情がより苛烈なものへと変貌するのを感じてはいたが、こちらから手を下すような真似はしなかった。

主や同胞達を慮ってではない。幽が嫌がるからだ。

幽は彼らの心情をしっかりと感じ取っていた。
だから全ては自分の所為だと思い、未だに心を痛めている。
それを非常にやるせなく思いつつも、今の自分に出来る事は、幽がなるべく彼らの悪意に曝されないようにと、この身を盾にする事だけだ。

それでも、騰蛇が常に控えるようになってから、幽の表情は見る見るうちに輝きを増すようになった。
騰蛇はそれを堪らなく嬉しく思うのだった。



「…蓮姫」

己が付けた二つ名を騰蛇は呟いた。
禍の象徴の名ではなく、美しく清らかであれと願ってつけたもう一つの名前。
その名を幽はいたく気に入ってくれたが、嬉しさ余りに他者にその名を教えようとするのはいただけない。

その名を呼ぶのは自分だけであって欲しい。

そう願うのは傲慢だろうか…。



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