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□アタシの王子様達
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歪む世界、反転する視界

重力に従って落ちる体

何も考える間もなく、目の前が真っ暗になった




《アタシの王子様達》




次に見えたのは真っ白な天井
鼻につく薬品の匂いから嫌でもここが保健室だとわかった


あぁ、そう言えばアタシ倒れたんだっけ


アタシは未だぼんやりしている頭で記憶を遡ってみた



たしか、さっきまで体育でバレーをやらされて
あまりの暑さに頭がボ〜ッとして
そして気がついたら、誰かが打ったボールが当たったんだったかしら

誰だったかしら、顔を覚えていれば後で倍返しにしてあげるのに


一眠りしたおかげでだいぶ体調が良くなった気がする
やっぱり朝を食べてこないのは駄目ね、これからは気を付けよう


この頃また増えてしまったのを気にしていたのが仇になったのかしら、何が増えたかなんていわないけど
後輩達には「充分ですよ」なんてよく言われるけど、この体型保つの結構大変なのよ

どっかの誰かさんみたいに食べても太らないタイプだったら良いのに

アタシは一つ溜め息を吐いてようやく気づいたことがある
…手に違和感を感じる

違和感というのは可笑しい気がするけど、何故か暖かい
ここでやっと気づくということは、アタシもまだ寝ぼけているらしい

違和感を感じる左手を見てみた
そこで温もりの正体がわかった
さっき話に出てきた誰かさんだ

いつもキラキラと輝かせている赤い瞳は瞼が降りていることで隠れている
アタシが寝ていたベッドの隣に座って前にもたれ掛かりながら眠っているこの子の右手はしっかりとアタシの手を握っていた

「……なんでここにいるのかしら?」


時計を見れば既に授業が始まっている時間
この子のことだから、またサボったのかもしれない
こういうところは本当に不真面目よねぇ

アタシは隣で寝ているこの子の頭を空いている右手で撫でてやる
癖があるけどサラサラして絡まない黒髪は本当に羨ましい限り
こうやって撫でていると、時たま「ん〜」と唸ったりした
まるで子猫のようね


こんな風にマジマジと顔を見たの久しぶりかも

アタシは彼の白くて綺麗な頬に触れながらそう思った


もともと小顔で目も大きいから女顔と言われているがこんな風に寝ていたら幼さが際立って可愛い印象しか与えない
だけど、アタシの手を握っている彼の手は女の手より少しゴツゴツしているし、制服の間から見えるしなやかな筋肉は男らしさも感じさせる
中性的という言葉がぴったりね

顔は整っているし、性格だって明るいし優しい
運動神経だって良いし、この頃は少しずつ学力的成績ものばしてきている
かなり理想的な男子じゃないかしら

今では随分モテているらしい

もちろんアタシだって負けてないわよ
でも、少しこの子と離れてしまった気がする


アタシがもう一度この子の頭を撫でていると、扉が開く音が聞こえてきた
そして、近づいてきていた靴の音が止まると同時にカーテンが開かれる

そこにいたのは、アタシのもう一人の自慢の幼馴染み


「……起きていたのか」

「まぁね、グリーンも授業サボってるの?珍しいわね」


真面目でクールな冷徹生徒会長様が

そう聞けば溜め息を吐かれた
何なのよ


「今、俺達は自由参加の授業だぞ。時間割くらい把握しておけ」


アタシはそう言われて再び時計を見る
確かにそうだ

アタシ達は皆と同じクラスであるがSPクラスという特別な枠にも入っている
そのSPクラスの特権はある授業では自由参加だということ
成績が良いから与えられる特権ね

なるほどと納得しているアタシの顔に何か冷たいものが当たる
突然の事で「キャッ」などと、我ながら恥ずかしい言葉出してしまった

見てみれば氷嚢をグリーンがアタシの顔に当てていた
言ってくれれば良かったのに、ビックリしちゃったわ


「顔がまだ微かに赤い、これを当てておけ」


少し愚痴ろうと思ったけど、ありがたくその優しさを受け取った
腫れなければ良いけどな、なんて思いながら氷の冷たさに勝る、グリーンの温もりを実感していた

グリーンがベッドの隣にあるパイプ椅子に腰を下ろすのを横目で眺めてみた
やっぱり学園が誇るイケメンね、仕草一つ一つがかっこいいもの

切れ長な目から除く緑色の瞳が綺麗に輝いている
本当にこっちの幼馴染みはカッコイイと言う言葉が似合う

頭脳明晰、運動神経抜群の文武両道
生徒会にも推薦で会長になってしまう学園も認める優等生
アタシと隣で寝ているもう一人の幼馴染みとは似ても似つかない真面目さ
そして、学園の女子も男子も教師だろうと一度は振り返る美形ときた

ジジコン、シスコンが無ければ完璧な男よね
そう言えば家事系の事も壊滅的って言ってたわね
常に無表情だし、隣のこの子と足して2で割れば完璧じゃないかしら


「どうかしたのか」


ボ〜っとしてたのか、グリーンがアタシの頭を撫でてくれた
皆が知っている冷徹な生徒会長とは思えない優しさね
こんな彼を見れるのは家族と幼馴染みの特権

何でもないと答えれば、そうかと言って頭から手が離れていった
少し寂しい気もする

その後、緑の瞳は視線をアタシの左手にそそがれた
そこには先程から気持ち良さそうに眠っているかっこ可愛い担当の幼馴染み


「俺が氷嚢を取りに行くまでは起きてたんだがな」


やれやれ、といったように溜め息を吐くグリーンの顔はどこか優しい
まったく、デレデレするなら二人っきりの時にやってちょうだい
なんて思うけど、この子を見ているとアタシも自然とそんな表情になってしまう
癒されるというか、微笑ましいというか

眠っていながらも、ずっと手を握り続けていてくれたことがすごく嬉しい


「疲れているんだろう。レッドもだいぶ無茶をしてるらしい、さっきの体育も辛そうだったしな」

「えっ!?大丈夫なの」

「なんとかもっていた、この頃部活での助っ人の申し出があとをたたないらしい」


この子、レッドはもともと部活に所属していなくて助っ人として活躍することが多い
学園一の運動神経をもつのも大変ね
今の時間少しでも休んで欲しいな、なんと思う


「まったく、レッドといいお前といい」

「あはは…、ごめんね」


ここは素直に謝っておく
確かに今回はアタシの自己管理がなっていなかった
苦笑いしながら視線を泳がせていると隣で唸る声が聞こえた
起こしちゃったかしら、ごめんね

ゆっくりと開かれる瞼から覗く赤い瞳は、まだ少しぼやけているけどやっぱり綺麗でつい見とれてしまう


「レッド、ブルーはもう起きてるぞ」

「ん…ぶるぅ……、ブルー!!」


突然立ち上がるレッドに驚いてつい肩が跳ねてしまった
今まで半分寝ぼけていたレッドも今では意識がはっきりして少し焦っているような顔をしている


「ブルー大丈夫なのか!?」

「えぇ、寝たらすっかり良くなったわ」

「まったく世話が焼ける」


心配そうに顔を覗き込んでくるレッド
呆れたように腕を組みながら優しく微笑んでくれるグリーン


「本当に大丈夫なんだな?」


そう言いながら、アタシの頬に手を添えて聞いてくるレッドの瞳は不安で揺れていた
あぁ、本当に心配させてしまったみたい


「大丈夫よ、ありがとう」


こんなに二人に思ってもらえるなんて、本当にアタシは幸福者だと思う

その後、レッドに説教された
貴方も言えたようなものじゃないけど、言っていることは全て正論なのが悔しい
それからグリーンからも何度か言われて完全に反論できなくなった

心配しすぎなのよ、なんて言えない
だって二人がアタシの事を思って言ってくれているんだもの
それに、もしもアタシが二人の立場だったら、同じくらい言っていたと思うから
二人の優しさが、とても暖かくて、安心するの

幸せで泣きたくなるくらい


ずっと二人はアタシの心配をしてくれていた
その間、レッドの手が離れることはなかった




教室に戻った後、ピンク色の髪をツインテールに結んだコガネ弁を喋る女の子が向かってきた
先程ボールを当ててきたのはこの子らしい
今ではそんなことどうでも良かった

わざわざ謝りに来てくれてありがとう、と言えば明るく笑ってくれた


その子から聞いた話

アタシが倒れた後、隣でバスケをしていた二人が授業中だというのにも関わらずアタシの方に駆け出してきたらしい
その時の二人の顔は、本当に心配していたみたい

アタシを保健室に運んでくれたのはグリーンで、ずっと傍にいてくれたのはレッド
まるで、王子様みたいだって女子はみんなあの二人のことで騒いでた

でも、その後の言葉はアタシの耳に入ってこなかった
不覚にも顔を赤くしていた


あぁ、なんて優しい二人なんだろう
そしてその二人と一緒にいれる自分はなんて幸せなんだろう


教室に黄色い声が響き渡る
例の二人が教室に入ってきたんだ

二人はアタシを見つけると柔らかく笑ってアタシの頭を撫でてくれた

ずっとこの二人と一緒にいさせて
それがアタシの一番の願い


「レッド、グリーン!!」


二人はアタシの自慢の幼馴染み
そして



大好きなアタシの王子様達



END

マサラ組はみんなが仲良し
いつもは緑赤+青みたいだけど
緑×赤×青が通常

一人になにかあったら周りが見えなくなるのがマサラの通常運転
そんな三人が大好きです

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