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□支える腕に愛を込めて
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いつもは、どこかチャラチャラしてて

でも、やるときはやるんだよって

可愛い後輩だったのに




《支える腕に愛を込めて》



寒さはとうになくなって、いつの間にか少し歩くだけでも汗が出てしまうような日が続くようになった
そういえば、ブルーは焼けるからと言って夏はあまり好きではないと言っていた気がする
逆にサファイアは天気が良いのが続くからと日焼けなど気にせずはしゃぎまわっていたな

それを思い出しレッドはクスリと笑いながら足元に置いてあるかばんを持ち上げた


レッドの学校は全寮制なため、ほとんど自宅に戻ることはない
だが、今回レッドは家に置いておいた夏服の制服や私服を取りに来たのだ


「流石にそろそろ長袖はキツいよね」


苦笑いしながら、ドアに鍵が掛かっていることを確認した
レッドは一人暮らしのため、今は家に誰もいない状態になる

行きより重みを増した鞄の中には自分が着るのだろうかと疑問に残る私服も混ざっている
しかし、せっかく親友のブルーが選んでくれたのだ、着ないのは失礼だろう

今レッドが着ているのは黒のキャミソールに白のミニスカート
もちろん、これもブルーが選んだものだ
シンプルながらレッドの白い肌やスラリと伸びた手足、長い綺麗な黒髪を引き立たせている
流石は、と言えるだろう
もちろん、レッドはそんなこと気にしていない


「ついでに掃除もしちゃったから遅くなっちゃった」


空は日が落ちるのが遅くなったとは言え、既に赤みがかかっていた
そろそろ帰らなければ、今日特別に帰宅を許可してくれた理事長に何か言われてしまう

レッドは少し小走りで駅まで走った



「うわぁ……」


目の前の光景に肩を落とす
見事に帰宅の時間と被ってしまったようだ

駅のホームでは溢れんばかりの人が集まっていた
もう少し早く終わっておけば良かったと今更後悔する


仕方ないよね


諦めて丁度来た電車に足を踏み込んだ

好きな人などいないと思うが、その中でもレッドはこういった満員電車が大がつくほど嫌いだった
どことなく怖いと思ってしまうのだ
特別、他人が嫌いと言うわけでなく大人数が苦手なのだ

なので、早く着かないかと願いながらそれまで緊張したように体を小さくして固まっていた
ドア付近で人に押し潰されてしまいそうだ
いつもだったら窓から見える風景を楽しむのだが、今はそんな余裕一切ない



やっぱりキツい……



窮屈というわけだけでなく、この人混みが精神的に苦しいのだ
レッドは鞄を腕の中で強く抱き締め少しでも心にゆとりを持たせていた

すると




スッ



「っ!!?」


何かが自分の太股に触れる感触にレッドは肩を跳ねさせた
最初は誰かの荷物が触れたかと思った
だけど、違う。人の手の形をして、明らかに撫でるように触ってきている

血が引いていくのがわかった
この動けない状態で、しかもドアの近くと言うことで逃げることも出来ない



最悪だ……



止めろと言ってやりたかった
だが、口から出てくるのは乾いた空気だけ
突然な事から生まれた動揺と、不安定な今の心境から生まれた恐怖のせいだ

やられてばかりが気にくわなくて怒りも込み上げてくる

しかし、この満員電車では全てが無意味だった

抵抗しないことを良いことに、その手は少しずつ上へと上がっていく



誰か……『   』


プライドが許さず、決して口にすることのなかった言葉が胸の内で叫ばれる
覚悟して瞳を固く瞑った


その瞬間



「おい、何やってんだ兄ちゃん」



聞き覚えのある声
しかし、記憶の中にあるそれより低く、重い、怒りが篭った声
そして、憎悪がこもった見慣れたようで初めて見る黄金色の瞳


ゴー?


「何やってるって聞いてんだよ」


ゴールドが男の手首を掴んでいる手に力を込めれば、男の顔はみるみる歪んでいく
周りの乗客も異変に気づいたのか男の方を見た
レッドを恐る恐る後ろを見てみれば、そこにいたのはまだ20代くらいであろう青年だった


次の駅で男は駅員に連れていかれた
ホームで半放心状態のレッドに駅員や乗客は『大丈夫?』と聞いてきたので、適当に苦笑いしながら返事を返した
その間、離れることなくゴールドは黙ってレッドの傍にいた


「ゴーは何でここに?」

「先輩がなかなか帰ってこないって理事長から聞いて迎えに来たんッス」


やっぱり心配をかけてしまったか
帰ったらきっと説教だな

優しく時には厳しい理事長が怒りつつその声はやっぱり優しい
そんな理事長の顔が頭の中に鮮明に写し出されると自然と頬が緩んで苦笑いしてしまう


すると隣から深い溜め息が聞こえてきた


「本当に、心臓に悪いッスよ」

「ゴー?」


レッドが顔を覗き込もうとしたら、腕を引かれてそのままゴールドの腕の中に埋まる形になった
突然の事で顔を真っ赤にしながら抜け出そうと試みるが、腕の力が強まりそうさせてくれない

「ゴー、離せって///」

「心配した」


ゴールドのどこか震えている声を聞いて抵抗を止めた
上を見上げれば今度こそ顔を見ることができた

今にも泣き出しそうなゴールドの顔


「レッド先輩は強くてかっこよくて、俺の憧れッス。でも、やっぱり綺麗で可愛くて…恐がりな女の子なんだよ」


そう言って、ゴールドは再び腕に力を込める
その腕の中には、酷く華奢で、すぐに折れてしまいそうで儚く、自分の恋しい存在


「先輩見つけたとき、頭の中真っ白になって、そんですげぇムカついてきた」


先程のゴールドを思い出す
今まで見たことないくらい怒りの形相だった
そこには、いつも無邪気に笑うどこか憎めない明るい後輩の姿はどこにもいなかった


「先輩だって、女の子なんスよ」


本気で心配してくれたんだ
そう思うと、胸の辺りが締め付けられて、瞼が熱くなる


「ゴー、      」


呟くほどの小さな声は、来た電車に掻き消されてしまった
聞こえたかはよくわからない、でも、どこか腕の力が強まった気がする


電車に乗り込めば、やはり人で溢れかえっていた
苦しいのを覚悟していたが、まったく感じない
何故かって、前にいるゴールドがレッドの顔の横に手をやって自分とレッドの間に空間を作ってくれているから
その腕は、背中で抑えている満員で震えていた


でも、ゴールドの顔を覗き込めばいつもの無邪気な顔で笑ってきた


「大丈夫ッスか?」


それはこっちの台詞なのに、とレッドは小さなため息を吐いた

いつから、こいつはこんなにカッコよくなったんだろう
いつも後をついてきて、子犬のような可愛い後輩だったのに
いつの間にか身長は抜かれ、力だってあっちの方が強くなった
顔も男らしくなってモテていると聞いたことがある


「(いつまでも子供ってわけじゃないんだな)」


心臓が激しく打っている


あぁ、やっぱり自分は……


「ゴー」

「何スか、先輩?」


きょとんとした顔はまだ幼さを感じる気がするけど、レッドにはそれもカッコよく感じた

レッドはやわらかい、皆を惹き付ける笑みをゴールドに向けて、先程掻き消された言葉を紡ぐ



「ゴー、ありがとう」




大好きだよ




END

どことなく、情緒不安定な先輩可愛いよね←
別に人が嫌いな訳じゃないけど、たくさんいるプレッシャーが苦手なんです
痴漢さんを若い人にしたのは、単純におっさんだとキモいと思ったからです(笑)
今回はワンコなゴーを書きましたが、いつか黒ゴーにもチャレンジしたいですねぇ
理事長が誰かわかってくれると嬉しいです

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