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□欲しい言葉は『   』
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話をするのが苦手なのは知ってるよ
笑顔が上手く作れないのも知ってる

だからあまり欲張らない

その代わり、言って欲しいんだ


《欲しい言葉は『   』》



朝、目の前の扉を勢い良く開く

予想通りベッドの上の住人はまだスヤスヤと寝息をたてている
これ程気持ち良さそうに眠っていると起こしてしまうのが可哀想な気がする
良心が痛むが、いた仕方ない
このまま起こさなければ昼まで寝てるだろう

一度息を吐いて、目の前の住人を揺さぶり始める


「朝だぞぉ、起きろぉ」


やはり、この程度では起きそうにない
口元がひきつるのがわかった


「なぁ、起きろよ」


今度は少し強めに揺する
可哀想だからこれ以上は強くできないが

しかし、やはり起きない
ため息を吐いて耳元に口を近づける


「グリーン?」


すると、住人もといグリーンはゆるゆるとその瞼を開く
瞼の下から覗く翡翠のような緑の目に一瞬見とれてしまう


「おはよう、グリーン」


あまり悟られないように急いで笑顔を作る
今のグリーンだったら充分隠せる

当の本人はボ〜っとしながらこちらを見ている、本当にこれが天下のジムリーダー様なのだろうか
だが、いつもは無表情でクールなグリーンの、この時だけ緩んでしまう顔を見れるのは家族か恋人の特権だろう
無性に可愛い顔についキュンっとなってしまう


「……レッド?」

「そうですよぉ、レッドくんですよぉ。一昨日帰ってきたの忘れましたかぁ?低血圧のグリーンくん」


そう言って、レッドは寝ている状態のグリーンの首に腕を巻き付ける
グリーンもそれを受け入れて右手でレッドの黒い髪を撫でた


「おはよう、レッド」

「へへっ///」


レッドは照れ臭そうにはにかんでみせる
その後にくる頬の柔らかい感触に顔を赤く染めた

頭が覚醒してきたのだろう
二、三歩後ろに後退する


「レッドが起こしに来るなんて…、姉さんは?」

「ナナミさんならマサキのところ、博士は何かの会議でジョウトに行ってるんだろ?」


なんでグリーンより知ってるんだろうと自分で言っておきながら脱力する
本人は思い出したようだ
しかし『マサキ』という名前が出てから眉間に皺が寄っているのは気のせいではないだろう


「久しぶりだな、レッドが家の来るのは」

「あぁ、昔はよく来たけどな。ナナミさんに頼まれて」


生活スキルを持ち合わせてないグリーンのためにだ
コイツに家事をやらせれば、まずキッチンは無事では済まない
先程言ったように昼まで起きないだろう

顔と頭は完璧なのにな
世の中に完璧なものなんていないんだとグリーンを見ると思ってしまう


「冷蔵庫勝手に漁って良い?」

「かまわない」


レッドは冷蔵庫を開けて何を作るか考える
料理には自信があるほうだ
その間にグリーンはまだ微かに靄がかかる頭を覚ますためにシャワーを浴びに行った


戻ってくる頃にはレッドは調理を始めていた

グリーンはそれを後ろから見ていた


「上手いな」

「慣れてるからな、いろんな意味で」


最後はどこか冷めているように言った
申し訳ない


「すまん」

「ハハッ、なぁーんてな。好きでやってるから良いんだよ」


レッドは後ろを向いて笑って見せる
その顔にホッとしたのか、少し頬が緩んだ
しかし、それを目撃してしまったレッドは内心穏やかではない

グリーンが笑ってる///ヤバイ久しぶりに見た、無意識怖い///
っていうか、髪濡れてた///形変わってなかったけど濡れてた///
畜生、乾かせよイケメン///かっこいいんだよ!!!!



だいぶ穏やかではなかった

レッドは湯気が出てしまいそうなくらい熱い自分の顔を隠す
もちろん、グリーンはそのことを知っていて(何故赤くなっているかは知らないが)楽しそうにレッドの背中を見つめていた

「そそそそそそう言えば、グリーンっていつも名前呼ばないと起きないよな!!!!」


異様に『そ』が多い
動揺を隠しきれていなかった
まったく、可愛いなとグリーンは頬杖をつきながら真っ赤にしたレッドを見た
その笑顔はひきつっている


「ほっ他に何しても起きないのに」

「そうか?」

「うん」


それは悪いことをしているな、とグリーンは顔を左手で覆う


「すまなかったな」


そんなグリーンの顔を伺うようにレッドは覗き込む
少し疲れているように見える


「ジムの仕事大変なのか?」

「それなりにな、お前の代わりになれているなら、どれだけでも頑張れる」


そう言って、近くにあるレッドの額に唇を添える
赤く染めてみせるが嬉しそうにはにかんだ


「ありがとな、グリーン」


そう言って抱きつく
グリーンは目を丸くしながらこちらを見た


「忙しくて大変で、オレが大きな事言えないけどすごく嬉しいよ、オレのためだって思ってくれるのが嬉しい」


ありがとう、とグリーンの耳元で囁く
温もりが気持ち良くて自然と腕に力が入る


「オレさ、いつもグリーンに迷惑ばかりかけてて凄く申し訳ないんだ、でもグリーンは優しくてつい甘えちゃう」


かまわない、そう言いながら長い指がレッドの髪をとかしていく
気持ち良さそうに綺麗な赤い目を細めた


「グリーンに迷惑をかけてる分、オレも何かやりたいんだ。本当に自分がやりたくてやってるからグリーンは悪いなんて思わないで」

「迷惑なんて」

「オレもさ、迷惑なんて思ったことないよ、だから『すまない』なんて言うなよ」


見上げれば、緑と赤の視線が交わる


「欲しいのはそんな言葉じゃない」


何かを訴えてくる瞳
不意に先程のレッドの言葉を思い出した
グリーンは口角をつり上げてレッドを抱き寄せる
丁度、レッドの顔が真横に来るくらいまで


「ありがとう、レッド」


抱きついている腕の力が強まる
当たりのようだ
グリーンからは見えないがきっと満面の笑みを浮かべているに違いない


「どういたしまして///」


跳ねるような明るい声が喜んでいることを物語っている


「じゃあ、オレが一番欲しい言葉はわかる?」


もちろんだ、と言ってグリーンは今度はレッドの唇に自分の唇をかぶせる
触れるだけの一瞬のもの


「愛してる」


クスクスと笑うレッドは思いっきりグリーンに飛び付く


「せーかいVvVv」


わかってくれる
いつもグリーンは自分の一番をわかってくれている
それが酷く愛しくて、たまらないほど嬉しい


「よし、じゃあ腕を振り絞って朝飯作るな!!」

「焦げてないか?」

「オレをなめんなよ」


そんな事させないよ
レッドは笑ってみせて調理を再開



ありがとう

後ろから聞こえてきた声につい、頬が緩んでしまった
香ばしい香りが広がる
流石はオレだ、とレッドは心の中で自分に拍手した




話が苦手でも、ちゃんと相槌を打ちながら話を聞いてくれるキミが好き
笑顔が上手く作れなくても、優しい目をしながら傍にいてくれるキミが好き








キミが言ってくれる『ありがとう』と『愛してる』の言葉は

キミをもっと好きにしてくれる

END

何故かまた「おはよう」ネタ(笑)
そしてまた多い『顔』という単語が多い
レッドさをは家庭的、グリーンさんのキャラがつかめない

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