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□雨の日だけの特権
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「それより、風丸。傘は?」

「あぁ、急いでたから持ってくるの忘れたんだ。走ればなんとかなるって思ってたけど、結構早く降ってきてな」


そういう風丸の髪は雨でびしょ濡れになっている
確かに風丸の足は速いが予定が狂ったのだろう
今でも、カバンを上にして防いでいるつもりでもやはりところどころが濡れてシミが広がっている


「んじゃ!オレはこれ以上濡れたくないから先行くから、円堂も遅れるなよ?」


そう言って駆けていきそうな風丸の腕を咄嗟に掴んでしまった
キョトンとしている風丸になんて言っていいのかわからない
円堂自身、咄嗟だったから

でも、行ってほしくなかった


「はっ入ってけよ!」

「えっ?」


遅刻すれすれなのに何を言っているんだと円堂は言ってから後悔した
だが、風丸は少し考えた後にこりとやわらかく笑った


「じゃあ、お言葉に甘えさせていただこうかな」


風丸は空いている円堂の隣に入ってきた
予想外のことに戸惑って円堂はその場にかたまってしまった
そんな円堂を風丸は覗き込みながら呼びかけてきた
それさえ上手く入ってこない


「えっ、でっでも、遅刻すれすれなのに良いの!?」

「入っていけって言ったのは円堂だろ?」


ため息を吐きながら呆れたように風丸がこちらを見つめた
それから、悪戯っ子のように笑みを浮かべて


「まっ、遅刻したら円堂にちゃんと責任とってもらうけどな!」


ケラケラと笑う風丸といることが円堂にとって至福の時間だった
せっかくのきっかけだ
この時間を長く続けていたい

それはわがままかもしれないけど


「あ〜あ、今日部活できないな〜、学校行くのもヤダよ」

「そんなこと言ってないでさっさと進む!」


そう言って、風丸は円堂の背中をバシンっと一回たたいた


「それより、風丸本当にびしょ濡れだな」


隣の風丸を見れば未だに拭くこともなくそのままの姿でいる


「風邪ひくぞ?」

「そんなことな・・・クシュッ!」


ほらなっと言って、風丸の方にタオルを投げつける



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