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□過去拍手文
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始まりはあの時だった

最初のきっかけは俺達の誤りからだった
その火種は徐々に大きくなり、いずれは世界を二つに隔てるほどの業火になった

何もなく、ただ戦だけが続く世界
もう、ため息しかでないような世界

きっと、これからもずっと続くのだろう

しかし、それは終わりを告げるかもしれない
あの炎のような赤く光る瞳と出会ったときから






緑の草をかき分け一人の少年は駈け出していた
未だに10歳満たさないほどの小さな少年だ
サラサラと流れ太陽の光を受けて輝く丁子色の髪、その草木に負けないほど美しい常盤色をしている
そんな美しい少年は何かに追われるかのように息をあげながら後ろを気にしながら駆けていた

後ろからは、どこにいった、と誰かを探すような声が聞こえる
その誰かというのがこの少年なのである


事の発端は一昨日行われた戦いだった
敵側が少年の国に攻めてきたのだ
もちろん防げないほどではない
しかし、避難に向かっていた少年は敵側の一人の兵にとらわれたのだ
人質だと言わんばかりに少年を敵対国に拉致
少年は隙を見て牢から逃げ出したのだ

そして今に至る


「そっちはどうだ」

「いや、いなかった。だが気配はまだある。逃がすな」


数十メートル後ろから聞こえる怒声
捕まってしまえば後がない
少年は疲労で前に進むのもやっとな足を𠮟咤して駆けている
しかし、二日間飲まず食わずな体はほんの少しの運動でも根をあげていた

後ろから聞こえてくる音が近づいてくる
焦りと不安から足元から意識が離れると何かが躓いてその体は地面に打ち付けられた


「いっ・・・痛っ・・・」


頬に土がつき、膝は擦って血が出ている
痛みに耐えながら立ち上がろうとするが疲労で限界まで来ていた脚はいうことを聞いてくれない
しかも、先ほど倒れた拍子に物音がしてしまいそれに気づいた兵はこちらに駆けてきていた

絶体絶命というのはこういう時に言うのだろう
もう駄目だ、そう思い瞳をきつく閉じたときだ
急に腕をひっぱられ立たされたと思ったら木の陰に身を隠された


「これ被ってな」


誰かの声が聞こえてきた
そして頭の上から何かがかぶさる感覚
驚いて瞼を開くが、目を閉じたときと同じように視界は暗い
頭から布をかぶされているのがわかった


「何やってんの?」

「あっ、あのこっちに子供が来ませんでしたか?」


その子供が自分だとわかると体が震えた
しかし、兵が改まったように、緊張しているような声になったのが気になったが、今は気配を消すのに必死だった


「子供?イエローとか?」

「あっ、その者じゃなくて。先日捕えた人間の子供です」

「あぁ〜、そんなの聞いた気がする」


まるで納得したような声が聞こえた
もしかしたらこの者は自分をこの兵につきだすのか、そう思うと体が自然と硬直した
覚悟をしなければならないのか


「知らないよ、というよりオレに無断で何連れてきてるわけ」

「ですが、奴がこちらにいれば我らにとって有利になります。人間の子供がこの森から一人で抜け出すなど不可能、必ず捕えて見せます」


今まで聞いていたのより低くなった声に少年の体が強張った
兵もあせったような声をしていた
そんな中少年は「一人では・・・ね」と呟いた
兵には聞こえなかったようだが隠れている少年の耳には確かに聞こえてきた


「まっ良いよ。いてもいなくても関係ないし、適当に探しちゃってよ」

「はっ、ハイ!!!」


足音が離れていく、駆けて行くところから兵が離れていったのだろう
ホッとして体に力が抜けると頭にかぶさってあった布が取られてまた強張る
目を見開いてそちらを見ると、自分が被っていただろう赤いコートを手に持っている少年が立っていた
少年といっても自分よりは身長は高いし年上だってわかるが少し幼い顔から自分より3,4程上くらいだろう(見た目より年上なのかもしれないけれど)
黒い髪が前髪あたりで跳ねているが風に揺れる髪はサラサラと綺麗で、その瞳は宝石のような赤い瞳

赤い少年は緑色の少年の目線に合うようにしゃがみこんで顔を覗き込んできた
緑の少年はその赤い瞳から目が離せなくなっていた


「君、大丈夫?」

「・・・っあ」


緊張のせいか会話が上手くできなくてただ呼吸をし開閉だけの口からは音が発することはなかった
それに気付いたのか赤い少年は二コリと頬笑みながら緑の少年のほうに手を伸ばす
完全に混乱している緑の少年は目をきつく瞑りくると予想した衝撃に構えた
しかしその衝撃はいつまでも来ない、その代わりに頬に温かいもの触れる
それが手のひらだと気づくには少し時間を要した


「土ついてたよ」


にこりと笑った
その笑顔はこちらに来て初めて見たものだ
とても優しく、温かくて、泣きそうになるような・・・そんな笑顔
自然と頬を涙が伝っていた
それを見た赤い少年は少し驚いたようにしてすぐにまた柔らかく笑った


「怖かったよな、よく一人でここまで頑張って逃げてきたな、もう大丈夫、無事に家に帰してあげるから」


抱きしめられて赤い少年の腕の中にいた
赤い少年の心臓の音が心地よく、頭の上から降ってくる言葉一つ一つ体ににじむようだった
しかし、最後に言った言葉が信じられなくて顔を上げる
それに気付いた赤い少年は同じように笑い、同じフレーズを口にする


「家に帰してあげる」

「どう・・・してだ」


帰りたくないのか?と聞かれて首を横に振った
帰りたいに決まっている、しかし目の前の少年の考えが掴めなかった
自分は敵対する国の人間だというのに、それを人質に取っていればいくらでもこちらに有利な場面が来るのに


「オレ、戦争とか興味ないから。それに関係ない奴を巻き込みたくないんだよね」


立てる?と尋ねようとしたのだろうか、緑の少年の足を見て無理だねと苦笑いを浮かべた
そして次来たのは浮遊感、自分が抱きあげられているのだと気付いた


「これ被ってればあいつらも匂いに気付かないだろうし、君だとは気付かないだろうね」


小さいのに気配消すの上手だね、とまた先ほどのように赤いコートを頭の上からかぶせてきた
だからあの時兵に自分の存在が気付かれなかったのかと思った


赤い少年が言った通り、進む道で何人かに出会った
しかしその少年が抱きあげているのが今逃走している子供だとは誰も思わなかった
数人は「そちらの子供は」と聞いてくる者もいた、しかし少年は「オレのボディーガードかな」とふざけたように答えた
いつもこの様子なのか、聞いてきたものも苦笑いしながらそれ以上は聞いてこなかった


「あんた、何者だよ」

「ん?ん〜、君の敵・・・かな」

「そんなの知ってる」

「わぁ〜、以外に冷めてるガキだなお前」


またふざけたような言い方をして自分の質問を流されるのかと思った
しかし、少し考えたようにして少年の頭をなでてきた


「オレはここで少しだけ力が強くて少しだけ皆より位が高いってところかな」


だから周りの奴はあんなに改まるのかと納得できた
そんな緊張と不安の時間がすぎると目の前が突如眩しくなる
それが森を抜けたことを告げていた

この国はこの森を入り口に広がっている、つまりこの国を出たことになる
赤い少年はその足を止めることもなくそのまま突き進む
しかし緑の少年もわかる、国を出て敵対国に近づくことは身を滅ぼす危険があると


「もういい!!俺を降ろせ!!」

「その足で大丈夫なわけないだろ、大丈夫だよ、そう易々負けるほどオレ弱くないし」


緑の少年の子供の声も聞かずに、赤い少年は歩き続ける
暴れようと思っても腕で完全にホールドされ動くこともままならない


そして、国境まで来た時だ


「ちょっと失礼するよ」


そう言って緑の少年の腰に付いている筒を手に取る
それは緊急の時、救護を呼ぶための道具だ
それを片手に取り、空に向けて勢いよく打ち上げた


「これで、ちょっと待ってれば助けが来るんだろ」

「すぐに来る、だからお前も早く」

「聞いてた?オレそんなに易々負けないし」


すると、向こう側から軍が来た
その中には緑の少年が見知った存在も


「おじいちゃん」

「あっ、君オーキドの孫なんだ」


抱きあげられている自分の孫を見て驚いた顔をしながら、こちらを睨みつけていた


「何が目的だ」

「目的って言われてもなぁ、あんたの孫を連れてきただけですよ」


赤い少年はにこりと笑って緑の少年からコートを外す
そしてその場に降ろしたのだ


「立てる?おじいちゃんが迎えてきてくれたよ」


窺うように効いてくるので一応うなずいた
それを見れば、そっか、と言って立ち上がった
そしてその場から数十メートル後退する
赤い少年が目配りをすればオーキドと呼ばれる老人は少年に近寄って抱きしめた
無事でよかったと、きつく少年を抱きしめる
生きて帰れたのだと実感すると、止まっていた涙がまたこぼれ始めた

それを見た赤い少年は安心したように頬笑み背を向けて歩んでいった
お礼が言いたかった、緑の少年が振り返って視界に入ったのは一人の兵士だ


「止めんか!!!」


オーキドの言葉も虚しく、兵士から撃たれた弾丸は赤い少年に向けて放たれる
風を切り一直線に進む弾丸、緑の少年は目を離しそうになった

しかし、その弾丸が少年を貫くことはなかった


「こんなんだから、戦争が終わらないんだよね」


冷たい言葉とはまるで逆のような深紅の灼熱の炎が少年を包む
どこから出たのか、出すそぶりさえ見せず現れた業火に銃弾は一瞬で消されてしまった
炎が消えた瞬間に見せた、悲しそうな顔
その表情はすぐになくなったが、緑の少年の印象に強く残った
そして赤い少年は緑の少年に目をやる


「そういう子供も、いつか戦火に飲まれるんだろうね」


幼くてもその意味はわかる、自分は何れ国の為に彼と戦わなければならない
それが終わらない因果を作り出すのだ
そう言って、赤い少年は再び後ろを向き歩みを進めようとした

それを見て緑の少年は駆けだした


「終わらせる!!終わらせてやる!!」

「?」


涙をこらえながら、その常盤色の瞳はまっすぐ紅蓮色を見つめる


「俺が、この世界の亀裂を正してやる!!共存できる世界を作り上げてやる!!」


半分は勢いで言っている、だが本気だ
それはその真剣な瞳が物語っている
そう感じた赤い少年は頬笑み


「楽しみにしてる、坊や」


そう一言呟いた
それにムッときたのか


「グリーンだ!!!」

「グリーン・・・その瞳の色と同じ名前」


覚えておくよ、とまた元の道を戻っていく
そして、赤い少年は最後に言った


「オレはレッド。バイバイ、グリーン」




それが、いづれ国の長となる少年と、平和を永遠と願い続けた長の少年との出会い



物語はその10年後のこと






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