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□人間ってなんですか
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いつも明るく笑っているアイツは、俺達の支えだった

どんなに辛くても、すぐに忘れてしまえるような笑顔が皆大好きだった

だけど、皆は知らない

アイツがもっている真っ暗な闇に




《人間ってなんですか》




あいつの家に行ってみれば、ドアに鍵はかかっていないのにアイツの返事はない
いつものことのため、俺は遠慮なく上がらせてもらう

アイツがいるのはいつも決まっている
いや、「こういう時」のアイツと言った方が良い

俺はアイツの部屋のドアを開ける
そいつは自分のベッドに力なく横たわっている


「お前はまたやったのか」

「……グリーン来てたんだ」


今まで枕に埋めていた顔をこちらに見せた、だるそうに体はベッドに預けたまま
赤い瞳はどこかぼんやりしている

オレはベッドに腰を下ろしてレッドの頭を撫でる
そうすれば気持ち良さそうに擦り寄ってきた


「お前は……その遊びグセ直せ」

「遊びじゃないよ、あっ、でもグリーンと比べたら遊びなのかな……」


そう言ってレッドは体を仰向けにして天井を眺める


「俺とあいつらを比べるな」

「クスッ、ごめん。比べ物にならないくらい、グリーンのこと大好き」

「俺もだ」


レッドの首に口付ければくすぐったいと笑われた
しかし、その時に気づいたのだ
レッドの首に赤い印があるのを


「……つけられてるぞ」

「うん、さっき鏡見て気付いた。いつの間に付けられてたんだろう」


反省の色はないらしい
俺も、慣れたとはいえやはり気にくわない
その赤い印の上からまた新たに俺が印をつければレッドは嬉しそうに微笑んだ


「今後は気をつけろ」

「付けられたらその上からまたグリーンが付けてくれるんだろ」


こんな考えを持っているせいで止めれないのかもしれない
また溜め息を吐く
溜め息を吐くと幸せが逃げると言われるが、こいつがいる限り苦労が絶えない気がする


「俺が気に食わない」

「じゃあ気をつける」

「その遊び癖も直せ」

「それは無理」


即答かよ
俺は溜め息をつけばまた笑われた


「いつか痛い目見るぞ」


「カラコン入れて、髪型変えて、服もいつもと変えて、偽名も使う。最後に酒や薬をちょっと盛れば記憶なんてぶっとぶよ」


少なくともオレとはバレないよ、とけらけらと笑うこいつはどこかの悪戯っ子のようだ
そこまでして何が楽しいのだろうか
俺には理解不能だ


「これはね、遊びに見えてオレには大切なことなんだよ」

「相手の人生を壊してもか?」

「相手がねだってきたんだ、望んでることだろ?それにオレにはアイツらのことなんてどうでも良いんだ」


ブルーや後輩達、こいつを知っている奴等が見たらどんな反応をするだろうか
少なくとも俺は驚愕する

いつも太陽のように笑っているこいつが、こんなに弱っているのだから
冷めきった赤い瞳は、まるで絶望を映しているようだ

寂しそうな目で俺を見て笑った
今にも泣きそうなレッドの手を握ってやった
その手から温もりを感じると酷く安心する
大袈裟かもしれないが俺にとっては重りが1つ取れたようだ


「オレにとって仲間以外の人間なんて道具にすぎないんだ」


こんな事、他の奴に聞かれたら怒られるな、なんてレッドは苦笑を浮かべた
俺には聞かれて良いのか、と思ってしまう


「グリーンはこんな俺のこと嫌いになるか?」


あぁ、人間のことをそんな風にいう奴はだいっきらいだ
きっと殴り飛ばしていると思う

だけど、そうしないのはレッドだからだ


「……俺はレッドの全てを愛してる」


オレは横になっているレッドの上に覆い被さるように手をついた
俺の影の中にすっぽり収まってしまう華奢な体も愛している


「グリーンは怒らないんだな、オレが他の女と体の関係作ってるのに」

「そうだな、むかついてはいる」


ただ、怒ってどうなる
この悪い癖が直るというのだろうか
だったら、とうの昔に殴ってでも止めたさ

だが、俺は知ってる
殴って、また元のこいつに戻るほどレッドの闇は浅くない


「大丈夫、オレが本当に愛してるのはグリーンだけだから」


そう言って抱きついてきたその腕はまた細くなった気がする


「……楽しい訳じゃないよ、知らない奴を抱くなんて。気持ち悪くなる」


耳元でレッドがポツリポツリと喋りだした
俺はそれに黙って耳を傾ける


「でもさ…、オレには止められないんだ。だってそれは……」


――オレの存在を示す行為だから


「産まれようと、おろされようと、オレには関係ない。孕ませたいだけなんだ、オレの子供を」


ギュッと腕の力が強くなる
レッド自身気づいていないだろうが、もうボロボロだ
身体も、精神も


「オレは化け物じゃないって、人間なんだって証明する物が欲しいんだ」


声が震えていた、限界はもうすぐだ
いつか、こいつは壊れる
狂ってしまったこいつを治す手段を俺は持っていない
だから、こうやって側にいるんだ。ずっと

強い力は憧れに、強すぎる力は恐怖となる
目標とされる力は、いつの間にか恐怖されるようなものになった

こいつは、どれだけのやつに化け物だと罵られてきたのだろう
まだ人間の人生の4分の1も生きていないのに、どれだけの蔑むような目で見られてきたのだろう
どれだけ自分の力をセーブしてきたのだろう
自分のやりたいことを全否定されて、どれだけ苦痛だっただろうか


「人間になりたいな……」


虚ろな目でそう言った
こんな言葉、聞きたくなかった

いつものように笑って欲しい
元のあの明るいレッドに戻って欲しい

……元のレッド?

あのいつものレッドが本物なら、ここで狂っているこいつは偽物か?
それとも、俺にだけ見せている泣きそうなレッドが本物で仮面のようにいつも笑っているレッドは作り物か?

いや、違う
あれもこれもレッドなんだ
皆に心配かけないように無理して笑って一人でこの小さな体に溜め込むこいつも
深い闇に沈んでも、皆がいれば救われて笑えているあいつも

どちらもレッドだ、何も問題はない


「グリーンは、化け物のオレが怖い?」


そう聞くレッドの瞳は不安で揺れながら俺だけを映していた
身体中にゾクゾクとした感覚にかられる
今のレッドを知っているのは俺だけだ


「もしも、怖いって言ったら?」

「……やだな、グリーンに嫌われたらオレ生きてけない」


レッドは俺の首から手を解くとそのままベッドに体を沈めた
苦笑いを浮かべているが、どうしてもさっきの言葉が冗談には聞こえない
もしも、レッドがいなくなったらと思うと恐ろしい
だが逆に、俺なしでは生きていけないと聞くと嬉しくてたまらない

とんだ独占欲だ、もしかしたらこれのせいでレッドを縛り付けているかもしれないのに

まぁ、手放すつもりもないけどな


「俺はレッドがたまに怖く感じる、だが怖いと化け物ということは等式で繋ぐものではない」


その質の良い黒髪を撫でる
指に絡まることなく溢れ落ちた


「人間は誰もが何かに恐れながら生きている」


誰かのために泣けて、心を痛めて、嬉しいときには太陽のような笑顔で微笑む
レッドは誰よりも人間らしい、なのに化け物という


「人間ってなんだろうな」


そう呟けば、レッドは目を丸くした


「お前は何故人間になりたがる?」


自分でも馬鹿げた質問をしている
だが、改めて聞かれたことでレッドは困った顔をしている
これでこの悪い癖が治れば万歳だ


「グリーンと一緒にいたいから…かな?」


こいつは、本当に俺の望むようになってくれないようだ
そんな風にはにかみながら言われてしまえば止める言葉を失ってしまう


「人間が何かなんてわかんないよ。ただグリーンの隣にいれれば良いんだ」


あぁ、なんとなくわかった
こいつが未だにこんな行為を続けているのが


「なぁ…、やっぱりどれだけ女を抱いても満たされないんだ」


止めるチャンスなんていくらでもあった
力づくでも止めれたかもしれない
だが、そうしなかったのは


「グリーンで、オレを満たしてよ」


こいつの言葉が、俺を縛り付けているから
どんなことをしても、こいつの言葉に必ず阻まれてしまう

なるほど、互いがきつく互いを縛り付けているということか……

そういうことなら


「……フッ、上等だ」


さながら、この深い口づけは
共に深くまで落ちていこうという、束縛の契り


「愛してるよ、グリーン」

「あぁ……たとえお前が化け物と言われようと、俺は『レッド』を愛している」


紡ぐ言葉は、酔わせる媚薬



堕ちる

堕ちる


だが、お前と二人なら




『人間という何か』を捨てて、闇に生きるのも


また幸せかもしれない


END

最終的に何が言いたいかわからない
赤先輩が病んでると思ったら、実は緑先輩まで……予想外になってしまった
強すぎて皆に怖がられてしまっても仲間は受け入れてくれるから笑っていられる
でも、全て気持ちを自分の中に押さえ込んでいてかなり無理してる
そんな赤先輩が本当に心を開けるのは緑先輩だけみたいな

化け物と人間の境って何なんでしょう

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