Long Story

□03
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頭の中で警笛が鳴り響く
これ以上関わってはいけないとだがそれとは別に本能が告げる

真実を知りたくないか、と


あの日からレッドはあのシアンという少年が頭から放れなくなっていた
もちろん怒りから来る敵対視かもしれない、しかしどうもそれでは納得いかない部分があった


「なんだっていうんだよ」


誰かに問うでもなく、レッドの言葉は静かな部屋の中で溶けて消えていった

あれから図鑑所有者はマサラに滞在し、未だに暴れている野生ポケモン達の鎮静にかかっている
その数が減ることもなく、まだアイツらがやっていると思うと腹が煮えくり返りそうだ
早く終わって欲しい
そう願いながら疲労した体は逆らうこと無くベッドに埋まった

一番疲れているのは自分達トレーナーではなく、実際に戦っているポケモン達なのだ
自分達には弱音を吐く権利などない
だからこそ、早く終わることだけを願うのだ

枕に顔を埋めれば瞼は重く起きていることが苦になった
個人の回復マシンで傷を癒しているポケモン達を横目で見ながらレッドは意識を静かに闇に沈めていった





そこは暗闇が広がる部屋
部屋と言っても、いくら歩いたって壁に触れることはない
そんな中、レッドは一人ぽつんと立っていた

響き渡る足音
そこには自分の存在しかないのだと錯覚しそうになった

でも違う、背中に包み込むような感触
優しい温もり
自分は一人ではないんだと安堵の息を吐いた
この温もり、似ている、だけどいつも一緒に戦うあの少女とは違う

誰かは分からない、だけど酷く懐かしい、この温もりを放したくない
レッドはその温もりの方を向いた

そこには一人の空色の瞳を持った少女が、こちらに優しく微笑んでいた
わからない、この少女が誰なのか
だけど、守ってあげたくなった。そんな雰囲気を出していた

君は誰?

聞こえたのか、聞こえていないかわからない
空気が振動した気がしない
しかし少女には通じたようで


――大好きだから、ずっと待ってるよ


耳に届く頃には彼女は闇に飲み込まれていた
手を伸ばそうとしたが届かない
それでも彼女は笑っていた

その笑みに冷たいものを感じたのはその時だ
そしてレッド自信も闇に飲み込まれる


――待ってるよ、『      』


最後の言葉は闇に掻き消された



……ド
……レ……ド


誰かが呼んでる、起きなきゃ
重たい瞼をゆっくり開けば窓から入る月光が降り注ぐ
そして目の前に現れる青色
背筋が凍った


「うわぁぁぁぁぁ!?」

「キャッ!」


体を起こすのと同時にレッドは目の前の人物を突き飛ばした
突然のことでその人物も対応できずにベッドから転がり落ち床に尻餅をつく
幸いにも頭は打たなかったようだ
そこでレッドの意識は覚醒した


「ブルー……ブルー!!ごめん、大丈夫か!!?」

「イタタ、えぇ大丈夫よ、ごめんね驚かせちゃって。レッド魘されてたから起こしてあげようと思って」


自分のために
レッドはブルーの厚意を知り罪悪感にしたる
つい俯いてしまったレッドにブルーは気にしないでとその頭を撫でた


「そんなことよりレッドが大丈夫?酷く魘されてたけど、嫌な夢でも見たの?」


心配そうに顔を覗き込んで聞いてくるブルーに、ふと気づく
レッドは夢の内容を覚えていない
こんなにも背中に嫌な汗を書いていて、顔色も良くないと言うのにだ
自分はこんなに記憶力が悪かっただろうか、近頃こんなことばかりだ
レッドは苦笑いを浮かべながら何でもないと答えた


「そういえば、ブルーなんで人の家に不法侵入してるわけ?」

「あら悪い?」

「世間一般では犯罪なんだけで」


別に今更そんなことでは怒らない
でも、用がなくてこんなことをするとは思わない


「本当に意味なんてないわ。強いて言うならレッドが心配になって?」

「えっ?」


ブルーはレッドのベッドに腰を下ろして彼の頭を撫でた
まるで子供をあやすようなそれは意外にも気持ち良くて再び眠気を誘った


「この頃、レッドが一番頑張ってるでしょ。私達も頑張るからレッドも私達に頼って」

「ありがとう、でも大丈夫さ。オレだけサボるなんて出来ないだろ?それに一番辛いのはイエローとグリーンなんだから」


自分の故郷を荒らされた二人にとって一刻も早くこの事件を解決したいはずだ
レッドだって、こんなことすぐに終わらせてまた平和で楽しい日々が戻って欲しい
ブルーは目尻を下げて辛そうな顔をしたが反論なんてできない
俯く彼女の頭を今度はレッドが撫でた


「がんばろ、皆で頑張ればまた元に戻るって」

「そうね、その時はまた皆でパーティー開きましょ!またレッドに頑張ってもらわなきゃ!」

「人使い荒いなぁ」


そんなことを言いつつもレッドの顔は楽しそうだった
待ち望んでいるのだ、早く平和なマサラに戻るのを
でも、その時、まだ気づいてない
この故郷が別れの舞台になることを






暗い廊下に駆ける音1つ
一人の少女がヒールが少し高いブーツを軽快に鳴らす
まるで足に羽が生えたかのように軽い
今にでもスキップしだしそうなほどご機嫌だった


「楽しくなってきちゃった」

「珍しい、そんなに喜ぶ君」


一人だと思っていた少女は背後からかけられた声に驚きながら踵を軸にターンして後ろを見る
その正体を確認すると再び顔を綻ばせる


「何か、良いことあった?」

「えへっわかっちゃう?」


だらしなく頬を緩ませている少女を怪訝な目付きで少年は見つめた
それを知ってか知らずか少女はその場で何度も回転してははしゃいでいる


「とても綺麗なものを見つけたの!貴方にも見せてあげたかったなぁ」

「君ね趣味おかしいから、良いものとは思えない」

「なんだとー!」


少年の言葉が気に入らなかったのか少女は少年に詰め寄りその腰に回し蹴りを食らわす


「君も見ればわかるもん!本当に綺麗なんだから」


わかったわかったと宥めると少女はまるで良いことを思い付いたといったような風に両手を合わせる
大抵良いことではないと頭の片隅で思った


「君も一緒に行けば良いのよ!そうすれば私が言いたいこともわかるはずよ」


返事も聞かずに既に決定事項のように少女は笑っていた
少年はため息をつきながら少女の方を見やる


「で、君が言う綺麗なものって?」


するとピタリと動きを止めた少女は薄気味悪い顔で笑う


「白いパレットの上に存在する純粋な赤色ってとても綺麗だよね」


聞くんじゃなかった
やはり、彼女の趣味は少しおかしいらしい
少年はまたため息をつく




その口元はどこか笑っていた





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