Long Story

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始まりの街
それがオレの生まれ育った故郷

吹き抜ける風は頬を掠め、まるで迎え入れてくれるように思えて嬉しくなった
一歩踏み出せば懐かしい香りが体を満たしていく
それも嬉しくてどんどん足が進んでいった


今も変わらない、何もない風景


この町には何もない
目立った建物もなければ、観光するようなものもない
だけど、ここにはオレの大切なものがあるんだ

少しだけ強い風が吹いて帽子が舞いあがった
そのまま美しい緑色の草原に舞い降りた帽子は再び浮かび上がった、いや正しくは持ち上げられただ

長くて綺麗な指がオレの赤い帽子のつばをつまんで持ち上げた
だけど、オレはそんなの見ていない
オレが見つめるのは草原なんかよりももっと綺麗で澄んだ緑色の瞳


「帰っていたんだな」

「さっきね、グリーンは?」


グリーンは傍まで歩み寄ってきてオレの頭の上に帽子をかぶせてくれた
なんだかさっきよりも帽子が温かくなった気がする
気のせいかもしれないけど、なんだか嬉しいな

どうしてここにいるんだろうなんて思ったけど、ジムはどうしたの?は聞かないでおく
グリーンの方をちらっと見てみれば白衣を着ていた、きっと博士の手伝いでもしてたんだろうな


「レッドが帰ってくるような気がして出てきた。帰ってきたな」


グリーンはオレの髪をつまんで微笑んだ
綺麗に笑うよなぁ、と思いながら少しそっぽを向いて顔が赤いのを隠した。きっと隠れていないだろうけどね
無意識だろうとけど、こういう時にサラッと恥ずかしいことを言うこいつがどうも苦手だ
不意打ちを食らったような気がする
でもさ、グリーンの言葉はいつも正直で嘘が無いのを知ってる。だから素直に嬉しいんだ


「迎えに来てくれたの?」

「あぁ」


寂しいような気がする単語の返事、だけどグリーンが優しいのは知ってるよ
そうやって微笑んでくれるのはオレともう一人の幼馴染、それに博士やナナミさんなど本当に親しい仲にしか見せてくれない
きっと後輩たちも知らないんだろうな
そう思うとなんだか自分が特別なような気がして嬉しくなる


「おかえり、レッド」

「ただいまグリーン!」


グリーンの大きな掌がオレの頭に乗ってゆっくりなでてくれた、その優しい手が大好きだ
あぁ、帰ってきたんだなぁなんて思う

すると、グリーンがいかにも「嫌なのが来た」というような表情になった
どうかしたのだろうか
オレはグリーンが向いている方向を無効とした

しかし、時すでに遅し


「レッドォ〜〜!!!」


肩にかかる重み、そのまま重力に従って体は地面に突っ伏した
もう見なくても何が降ってきたかなんてわかってる、少なくとも思いあがるのはたった一人
相変わらず元気だなぁ


「ブルーさん・・・重いです」

「あらヤダ、女の子に失礼じゃない」


不貞腐れたようにオレの背中の上で頬を膨らませ腕を組んでいた
確かにブルーはそこら辺の女の子よりも軽いけど流石に上から落下してきたら重いでしょ
彼女の方を見れば上ではプリンがふよふよと飛んでいる、なるほどそこから降りて(落ちて)きたのか
しかしブルーはすぐにオレの背中から降りた、こういうところは素直だ


「戻ってたんだな」

「えぇ、なんだかマサラに帰ってきたくなって。もしかしたらレッドが帰ってくると思ったからかもね」


青い綺麗な瞳がオレをとらえてにこりと笑った、悪戯っぽい笑いだがでもどこか優しく微笑んでいるようだ
そう言ってブルーはオレの腕に自分の腕をからめてきた
そこから伝わってくる彼女の温もりは彼女自身を表しているように優しかった

あんたもこっちにきなさいよ、と言って今まで傍観者で会ったグリーンの腕を取ってオレと一緒に抱きこんだ
近くに感じる二人の体温が酷く温かくて
安心して、眠りに落ちてしまいそうになるくらい心地が良かった
久しぶりだな、こうやって三人でいるの


風が吹く
オレ達の周りに、包み込むように、迎え入れるように



この町には特にこれといったものは何もない
だけど

綺麗な緑色の草原があって、綺麗な青色の空がある
オレの昔から大好きな風景、昔から大好きな香り

そういえば、オレ達もここから始まった


『マサラはまっしろ、始まりの色』

その通りだ
ここは始まりの町

皆がここから始まった
オレ達もそうだ
この町から一歩出て、出会って、そしてまたこうやって会って、共に歩んできた


「やっぱり大好きだなぁ」

「何が?」


えっ、と思った。もしかして声に出ていた?
グリーンとブルーが不思議そうにこちらを見ているのだから、きっと声に出ていたんだろうな。少し恥ずかしい
でも、これは素直な気持ちだからもう一度言う


「やっぱり、オレこの町とお前達が好きだなって」


そう言うと抱きつかれている腕の力が強まった気がする、なんで?
なんか恥ずかしくなってきたんですけど、顔に熱がどんどん集まっていくのが自分でもわかる


「アタシもレッド大好きよ!!」

「俺もだ」


グリーンがオレの額に唇を寄せた
本当に突然過ぎて何もできない、いつの間にかされて、理解した頃にはこれ以上ないくらい顔が赤くなった
このイケメンはどれだけオレを赤くすれば気が済むのだろう




――おかえり、レッド




顔を上げれば優しく微笑む二人がいる
頬を優しい風が触れる
懐かしい香りが体を満たしていく


「ただいま!!」


暖かくて、優しくて

そんな大好きな町で

大好きなお前らに出会えた


そんなお前達と過ごせる日々が大好きだ




こんな日が続くと信じていた
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