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□追って追って最後には
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貴方は僕にとって、とても大きな存在でした

頑張ればずっと貴方の傍にいれると思っていました

貴方がいなくなった後、寂しくて悲しくて

でも、それだけ貴方の存在が大きかったんだって思いました




《追って追って最後には》




桜色が澄みきった蒼い空を覆って幻想的に映っている
今日が晴れて良かった

なんたって今日は大切な日なんだから

僕とあの人が出会ってから二年が過ぎた
そして……


今日はあの人が旅立つ日


卒業おめでとう!


遠くから聞こえてくる声に耳をすませれば、いろんな所でこの言葉が使われている
本当に喜んでいるような声、寂しさから嗚咽まじりな声
人様々だ


周りを見れば自分の第2ボタンやリボンをあげてる先輩もいる
僕も貰いに行けばよかったかな
でも、今更行ってもあの人は人気者だからきっと第2ボタンどころか全部のボタンが無くなっていそうだ

少し後悔しながら、僕はまた空に視線を移した
澄みきった蒼い空はまるであの人のようだ
頬を撫でる冷たいようで暖かい風もあの人のように感じる

その風によって舞い上がる桜の花びらは蒼い空によく映えた

それさえも綺麗なあの人のようだと思ってしまう僕はとことん末期だろう

そんな僕に近づいてくる足音
その足音さえも僕には心地良いリズムに変わる
誰が来たなんてすぐにわかる

僕は精一杯の笑顔で出迎えた


「風丸さん!」

「待たせたな、宮坂」


僕の名前を呼びながら綺麗に微笑む風丸さん
その微笑みが僕に向けてだと思うと自然と頬が緩んでしまう

予想通り風丸さんの制服にはボタンが全て無くなっていた


「人気者は辛いですね」

「あはは、遅れて悪かったな」


そう言って苦笑いする風丸さんの頬には泥が付いていた
流石に今から付き合ってもらうのは風丸さんに負担をかけるだろうか


「良いんですか?さっきまでサッカー部で卒業試合してたんですよね」

「大丈夫、これくらいで倒れるほど柔じゃないし、こっちも大切なオレの仲間だ」


そう言って、風丸さんは僕の頭を撫でた
やっぱりこの人は優しい

今日で風丸さん達はこの雷門中を卒業してしまう
そういうことで、最後に風丸さんと走りたいという陸上部全員の要望に笑顔で承諾してくれた
サッカー部の卒業試合の後でという条件付きで

サッカー部を優先したのは少し悔しいけど、仕方ないと思う
風丸さんは最終的にはサッカー部なのだから

だけど優しい風丸さんは何度か陸上部に声をかけてくれた
陸上部に戻ってきてくれることは無かったけど、僕にとってはそれだけで充分なんだ


「行きましょう、風丸さん!!!皆が待ってます!!」


そう言って僕は風丸さんの手をとった
払われず、握り返してくれることが幸せで仕方がない
やっぱり僕はまだ風丸さんの事が好きなようです



グラウンドには既に皆が集まっていた

去年卒業した先輩もいる
今日の為に集まったんだ
風丸さんが来なければきっと集まることはなかっただろう

それだけ、風丸さんは僕たちにとって大切な存在だったんだ
元キャプテンから受け渡されるユニフォームを風丸さんは嬉しそうに受け取った

オレンジ色のユニフォームを着る風丸さんを見るのは一年ぶりだ
どこか懐かしくて鼻の辺りがツンッと痛くなった
そして、風丸さんが走る姿を見るのも久しぶりで胸の奥が熱くなった


「風丸ぅ、怠けてるなんて冗談はやめてくれよ」

「まさか」


同じ同級生の先輩の冗談交じりの言葉に余裕の笑みを見せる風丸さん
その言葉に一層僕の中の期待が膨らんだ


懐かしそうにグラウンドを眺める風丸さん
最後に風丸さんがグラウンドに立ったのはいつだろうか
昔のようでつい最近のようにも感じる

少なくとも、風丸さんがいるだけでこのグラウンドが少し狭く感じる
こんなにも色鮮やかに感じる

たった一人の人がいるだけで、これほどにまで僕の世界の見方が変わるんだ


最後に見た時より、風丸さんは身長も高くなってる
髪も少し伸びているし、少しだけだけどその白くて細かった腕や足に筋肉もついた
今まで可愛かったと印象が強かった風丸さんはいつしかカッコいいという言葉が似合うようになっている
もちろん、今でも可愛いと思うし、昔からカッコいいとも思っていた

だけど、また違う印象を感じるのはきっとここにいる皆が思うことだと思う
きっといつも一緒にいたサッカー部の人たちにはこの変化に気づくことはできないだろう

そこには少しの優越感を感じる


さっそく始めようかという先輩たちの声
また一緒に走れるんだ、風丸さんの隣で

それだけで、僕は今までで一番の喜びを感じている


「風丸さん!!」


僕は再び風丸さんの手を握ってみせる
いきなりの事で風丸さんは驚いているように見えたがそんなことどうでもいい


「絶対負けませんからね!!」

「・・・あぁ!!」


強く握り返してくれる手に、僕も力を込めた
風丸さんは僕にとって、大好きな人であり、憧れな人であり・・・最大のライバルなんです



―必ず風丸さんを抜かしてみせる



僕が陸上部に入ってから変わることのない目標
それは今も変わらない


スタートラインに立つ部員
みんな風丸さんと走りたいらしくて、何度も走らせてしまうことになったけど、本人は全然平気だと言っていた
むしろ、風丸さん自身が走りたいとも言っていた

走ることが好きなのは変わっていないんですね
やっぱり、風丸さんは風丸さんだ


グラウンドに響くピストル音
そして一斉に地面を蹴る音
これほどはっきり聞こえた時は僕の中ではないと思う


一瞬、ものすごい風が吹いたかと思った
次に目を開く頃には後ろに差をつけ余裕そうな表情を浮かべ、ゴールで立っている風丸さんの姿


「だらしないぞ!みんな」

「お前、速すぎ・・・」


次にゴールした速水さんは限界といったように肩で息をしていた
前まで風丸さんと肩を並べるほどの実力を持っていた速水さんでさえ、あそこまで差をつけられていた


―あなたはどこまで速くなるんですか?


気づけばじっとしていれなくなった
早く風丸さんと走りたい、走ってみたい

僕の視線に気づいたのか、風丸さんがゆっくり僕の方へ歩み寄ってきた
そして、今度は風丸さんが僕の手を取る


「宮坂、一緒に走らないか。二人だけで」


他の陸上部メンバーが驚いたように僕達を見ていた
あの風丸さんのちょっとした我が儘
今まで優しかったこの人はみんなと一緒に走ってくれた

だけど、今風丸さんは僕と・・・僕だけと走りたいと言ってくれた


「やれよ!宮坂」

「風丸にお前の成長見せてやれ!!!」


後ろから掛かってくる先輩や同級生の声
楽しみだな、と言って微笑む風丸さん

僕は嬉しさのあまり声を張り上げて「ハイっ!!!」と答えた







広いグラウンドに広いコース
なのにそこに立っているのはたった二人というのはどこかおかしいかもしれない
だけど、そんなことを考える余裕なんて僕にはなかった
隣には大好きで、憧れの人が一緒に立っているのだから


「手なんて抜かないでくださいよ」

「お前こそ、全力をぶつけてこい」


真剣そうな顔で地面に手をつく風丸さん
僕も同じように手をついた

静まり返るグラウンド
隣にいる風丸さんに緊張で早くなっている僕の心臓の音が聞かれてしまう気がした
それと同時に、風丸さんの心臓の音も聞こえるんじゃないかって少し耳をたてる


先輩が腕を伸ばす、その先にあるピストルに意識を集中させた
一つ一つの動きがスローモーションに感じる

走ってもいないのに、頬に汗が伝う


そして




グラウンドにピストル音が響き渡った




持ちあがる体はいつもより軽い

足が自然と前に出る

風が体を避けているよう、背中を押してくれるよう



視界の横を風が横切る、空が横切る

変わらない、僕の前を走る貴方

貴方はやっぱりすごい、やっと追い付いたと思ったのにな・・・



白いラインに足がつく

今まで軽かった筈の足は急に重りが付いたように重くなった
今日の記録は今まで一番速かったと思う

ちらりと隣を見れば、僕と同じように膝に手をあて肩で息をする風丸さんの姿

さっきまであんなに余裕そうな顔をしていたのに
本当に全力で走ってくれたんですね


「宮坂・・・速くなったな。驚いたよ」


風丸さんは額についた汗を拭いながら途切れ途切れそう言った


「走り続けてましたからね・・・あなたを目指して」


こちらも息を途切れ途切れにこりと笑いながら言った

後ろから先輩達が駆けてきた


「お前達すごいな!!二人とも新記録だぞ」

「でも、残念だったな。宮坂」

「せっかく抜かしたと思ったのにな」


最後の先輩の言葉に風丸さんが僕の顔を不思議そうに見てきた
僕にあった、ちょっとした自慢が今日でなくなってしまった


「どういうことですか?」

「実はな、宮坂、今までのお前の記録を抜かしたんだ」

「でも、また抜かれちまったな」


実は僕は風丸さんが陸上部時代に出した最高記録を抜かしたことがあった
風丸さんが出した最高記録は、今までの陸上部の中でもまさに最高だった
でも、それを抜かせたのだ
追いつけたと思った、あの人を抜かせれたと思った

でも、こんなにあっさりと抜かれてしまった


「そんなに残念がるなよ、宮坂!」


そう言って先輩が僕の肩をたたく
でも、その言葉を聞いたら急に笑いが込めてきた


「ハハッ、残念?なんでですか」


周りのみんなが驚いたような顔をした
風丸さんも目を丸くした
今日はみんなのそんな表情をよく見るなぁ


「また目標ができたじゃないですか!!僕はまた風丸さんを抜かします!!もっと速くなってみせます!!」


そう言って拳を作る
今まで目を丸くしていた風丸さんは目を細めて僕の頭に掌を乗せた


「抜かしたらオレに言えよ?オレがまたその記録を抜いてやる」

「だったら、また僕が抜かします!!」


こんな永遠ループのような誓い
でも、この誓いがある限り、僕は風丸さんと一緒に走って入れるんだ


「陸上部の事、頼んだぜ宮坂」


風丸さんに任されることが酷く嬉しい
ようやく風丸さんが僕を見てくれた気がした


「がんばれよ、陸上部部長」

「はい、風丸先輩も高校で頑張ってください」





知ってますか?

もしも、風丸さんが陸上部を辞めていなかったら

陸上部は今まで風丸さんが部長として仕切っていたんですよ?

今までの大会でも、風丸さんの記録はまだ破られてないんですよ?

陸上部の部室にはまだ風丸さんの賞状が飾られているんですよ?


風丸さんはほんの1年と半年で多くの事を残していった


やっぱり、離れていたとしても、いなくなってしまうのは辛いけど・・・



「卒業おめでとうございます、風丸さん」

「ありがとう、宮坂」










追って、


追って



追いついたと思ったら



何度も突き放された




僕は何度も追いつこうと思った



だけど、もしも貴方を抜かしてしまったら




もしも、貴方がその足を止めてしまったら



僕もその足を止めて貴方を見ながら待っていた




僕は、貴方の後ろを走り続けるのが好きなんだ








追って


追って




最後には









きっと貴方が、ゴールで微笑んでくれる






そして







――好きです




そう言って、貴方を抱きしめさせてください




END


初めてまともな宮坂を書いた気が・・・←
宮風というか・・・宮→風?もしくは宮風宮??
風丸さんは優しいから卒業式の日きっと陸上部にも顔を出したよね
そして、次期部長は宮坂になってれば嬉しい
陸上部でエースといわれていた風丸さんに代わって、今では宮坂がエースなんですよ
あまり切なくないよう目指しました!!

30000フリリクありがとうございました!!!

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