―――――



 あの後、レイはものの1分で帰って来て、さっきの事などやはり気にしたような様子もなく、普通に話しかけてきた。
「お風呂準備しました、入りますか?」
「あ?…ああ、今はいい…それより腹減ったんだけど」
「では、晩御飯にしましょうか」
 ニコニコしながら言うレイ。
 さっきの笑顔とは全く別物のような、うれしくて仕方のないとでもいうような笑顔。
 なにが嬉しいのかは知らないが。
 だが、その笑顔はリラの顔を見た途端止まった。
「………」
「…なんだよ」
「ちょっといいですか?」
 するといきなり前髪がふわっと持ち上げられた。
「なっ…なにすんだよ!」
 驚いて突き放そうとするとその腕は難なく掴まれ、動きを封じられる。
 こいつ、意外に力、強い…!
「大丈夫ですから、何もしないので…ただ、ちょっと黙って動かないでください」
「…っ」 
 額に手が触れる。
「…この模様…どうしたんですか?」
「え、あ、朝ついてた…」
「…そうですか」
 近くなる瞳。
 レイの深いブルーの瞳に吸い込まれそうで目をつぶると
 次の瞬間、額にチクリというような痛みが走った。
「つっ…」
「…これで大丈夫でしょう…」
「何がだよ」
「リラさん。これで、痛みはなくなりますよ、普通に見ればリラさん以外の人には何
も見えません…でも、何か額なことで聞か
れたり額が痛くなったりするようなことが
あったら些細なことでも言ってくださいね。」
「え…」
 なんで痛いだとか模様の事とかわかるんだよ…?
 そう、心の中で思う。
 だが、それは思っただけで口には出せなかった。
「…なんでだよ?」
「…それは…」

“いつかわかりますよ”

 そう言ってレイはまた、静かに笑った。
「な…っ」
 なにか言おうとしたのだが言葉が出てこない。
 そしてそんな自分が腹立たしくなる。
「リラさん」
「な、なんだよ…」
「すみません」
「は?」
 いきなりの事にさっきまで考えていたことが頭から飛んでいく。
「なんで謝るんだよ」
「…えっと…なんとなくです」
「いみわかんねぇ…」
 その時、リラは知らなかった、
 レイが一瞬顔を曇らせたことを
「あ、ご飯の用意でしたね、あと10分くらいですませます」
「ん。」
 そう言ってレイはパタパタとキッチンへ駆けて行った。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ