Uこれからよろしくお願いします

 あの後、俺達は部屋に二人きりにされてしまった。
(あんのクソじじい…何考えてやがる…)
 あまりにも不用心だとぶつぶつ呟いているとその“レイ“とかいうやつに目が合った。
「なに?」
 おもいっきり睨みつけながら口を開くと、レイはまた微笑んで言った。
「いえ、ただ眼が合いましたので。」
 それだけです。と、一言言うと、また黙り込んでしまった。
 沈黙が続く。
 リラはその空気に耐えられなくて先に口を開いた。
「…部屋行くか?…」
「そうですね。」
 レイはまた一言口にすると、近くにある古びた袋を持って、いきましょうか、と言った。
「え、ちょっと待て、荷物って…それ以外に何があるんだ?」
「?…別に…これだけですけど。」
 不思議そうに、そう返事したレイ。
「ふぅん…」
 まぁべつに興味もないので、そう流しておく。
「どうぞ」
 レイがドアを開け、リラが部屋から出ると後ろでドアの閉まる音が…しなかった。
「ドアは?」
「閉めていますよ。」
 バッと後ろを振り返ると、レイが言ったとおりドアはきちんと閉められていた。
 すると、最初からなにかおかしいと思っていたことに気がついた。
「どうしました?」
 
こいつには気配がない。

「いや、なんでもない…」
 ここまで気配を消しきった者をリラは見たことがなかった。
 気味が悪い。
 そう思ったのもつかの間、いつの間にか部屋に着いていた。
 ドアにぶつかりそうになり、慌てて足を止める。
「ここですか?」
「そう。」
 そっけなく返事を返すが、そんな皮肉もこいつには通じないらしい。
 部屋に入ったリラはすぐに近くのソファにドスンと座った。
「はあぁぁぁぁぁ…」
 いままで溜めていた息をはく。
 そのままバタンと横になると目の前にレイの顔があった。
「疲れましたか?」
「それが何?」
 するとニコッと笑い“お茶淹れてきますね。”と、レイは台所へと消えていった。
(気がきくじゃねぇか…)
 少しだけ安心する。あんな貧弱な奴任せられるのか…?と思っていたところなのである。
(…しかし気味悪い奴だな…でもなぜかどこかで会ったような気がする…どこだったっけ…)
 また額がうずく。こうやって思い出そうと するとまた雑音が邪魔してわからなくなってしまう。
「ん〜…」
 めんどくさくなってきて考えるのを途中でやめた。
(そういえば…)
 すると、さっきエリックが気になることを言っていたのを思い出した。
『レイ君には従者さん以外に、ほかにもいろいろと頼んどいたからねぇ〜』
“詳しくはレイ君に聞いてね❤”
と意味不明なことを言っていた。
(他にもいろいろ…?)
 そう考えた途端背筋が寒くなった。
 できるだけあいつとは関わりを持ってはいけない気がするのだ。
 よくわからないが…
 そうやって考えを巡らせているとレイが戻ってきた。
「コーヒー砂糖いれますよね?」
「え…いれるけど…なんで知ってんだよ…?」
 誰にも言ったこともないし、知っているわけないことをあてられたことに少し冷静さを忘れてしまう。
「エリック様に聞きましたから…」
「あぁ、そ、そうだよな…」
「はい。」
 いっきに体の緊張がほどける。
(めんどくさい…今になっても忘れられねぇのかよ…)
 それはちょうど5年前の事だった。

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