U 新たな来客者

 起きるとリラはベッドの上だった。
昨日のこともすっかり忘れていて、なにかあったな…というほどしか覚えていないのだ。
「…頭いて…」
 う思っていつものように部屋の鏡を覗き込んだ瞬間一気に目が覚めた。
「何だこれ‼?」
 額になにか紅い模様が描かれていたのだ。
「うわっっ‼これのかねぇッ‼」
 布でこすっても石けんで洗っても落ちない。

まるで体の一部みたいに…。

「んん〜〜…まぁ前髪で隠せるし、なんか害を起こすわけでもねぇしほっとくかぁ…」
 リラはそう呟くとこすって赤くなった額をさすりながら部屋を出た。
 この模様が何を意味するのかも知らぬまま…―――

―――――

「おはようございますリラ様」
「おー…」
「おはようございますリラ様。今日は天気がいいので朝食はお庭で食べましょう。」
「いい。朝飯いらねぇ。」
「しかし…!」
「要らねぇっつったらいらねえの!」
「…かしこまりました…」
「んじゃ、」
 もうわかった人も多いだろうが、リラは金持ちの家の御曹子である。 
 父親は宿屋を経営していて、母親はその接客をしている。
 兄弟は3人。リラはそのうちの二男でここの宿を継ぐことになっている。
 …なぜ長男が継がないのかと聞かれたら話は長くなるのだが、簡単に言えば長男は家出をしたのだ。
 兄によると、“俺は自分探しの旅に出る‼”…とのこと。
 俺はそのころちっちゃかったからわからなかった…と思っていたのだが、
 皆も訳が解らないらしい。新しい発見だった。
 まあ、自己紹介はそれくらいにして、
 今リラが向かっているのは父エリックのもとである。
 一日一回は会わないと大変なことになるのだ。…その理由は後でわかるだろうから今は言わないでおく…。
 ドアの前まで来た緊張を抑えるために深呼吸をする。
――コンコン
 ドアを叩くと中で人が動いたのがわかった。
「…リラです。」
「ん…入っていいぞ。」
 低いテノールの扉の向こうから返事をした。
 リラは意を決しドアを開ける。
 すると、その瞬間なにかがリラに飛びついてきた。 
「おえっっ」
 そのまま一緒に床へ倒れこむ。
「おいっっ‼いっつもいっつもキモイっつってんだろ…親父ぃぃっ‼」
「リィ〜ラッ!ひ・さ・し・ぶ・りっ‼会いたかったよっっ‼」
「昨日も会ってんだろク・ソ・ジ・ジ・イィッ‼」
 このとにかく明るいこの人こそがリラの親、エリック・マジェスタ。この宿の主人である。
 リラと同じく黄金の髪で、少し長め、黒ぶちの眼鏡をかけていて整った顔によく似合う。
 皺もちょこちょことあるが、それもちょうどいい。上手に歳を刻んだというかんじだ。
「離れろっ‼」
 どうにかエリックを体からはぎ取ると、荒い息を整えてから言った。
「はぁ…んで?…なんか用ある?」
「え〜っと…ああ、あったあった!」
 エリックはなにかおもいだしたようで飛びついた時に歪んでしまった眼鏡をかけなおすと、パンパンと手を叩いて言った。
「ベリシエ!連れてきて!」
「はい、ただいま!」
 ちなみにベリシエというのは、エリックの従者と呼ばれる物である。
 従者について簡単に述べると、執事みたいな物…だろうか。
 するとベリシエが何者かを連れてきた。
「…だれ?」
 その人物は頭と顔を布で包んでいて、体全身もマントで覆っていて見るからに怪しい。
 露骨に嫌な顔をするリラ。
「えっと〜このこは…」
 エリックがそう言いかけた時、その人物が頭の布をとった。
「……!!」
 おどろいた。その人物は真っ白な髪をしていたのだ。
 その男は髪を後ろで束ねていて、綺麗に整った顔立ち。
 瞳は深海のような深い藍の色で、まつ毛が長い。
 男であるリラでもドキッとするような美青年である。
「お前…!」
「え、何だ、会った時あるの?」
「…ない。」
(けれどどっかで…)
 思い出そうとすると頭の中の雑音が邪魔して考え事に集中できない。
「う…」
「どうかしましたか?」
「……」
 リラはとてつもなく嫌そうな顔をすると、目の前にある顔を睨んだ。
「別に…」
「そうですか…ならよかったです。」
 そう言ってそいつはニッコリと微笑んだ。
(綺麗に笑うな…)
と思って気がついた。
(いやいやいや、違う、俺は騙されねぇぞ。こいつは自分に風邪が移らないのを聞いて安心しているわけだ。決して俺のことを心配したってわけじゃ…しかも俺は男だ‼‼‼
けっ……してドキッとしたわけじゃないからな‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼)
 そう頭を悩ませているといつのまにかエリックがリラの顔を覗き込んでいた。
「どうしたの?」
「うわぁぁっ‼」
「なやみ事?悩み事なら聞くよ?」
 ビックリして2メートルほど飛び上がってしまった。まだ心臓がドキドキいっている。
「え?あぁ、それでこいつの名前は?」
「ん?え〜っとねぇ…あれ?誰だっけ?」
 そこが一番肝心だろ…と、突っ込みたくなるのを抑えて、この人大丈夫か?と思いながらも、もう一度聞く。
「んで、誰?」
「えっと…あ、レイ」
「ん?」
「レイ…と、お呼びください」


―――ズキン


額がうずく。
「レイ君ね!この子は僕の子供でリラって言うんだよ!これから仲良くしてね!」
「これから?」
「あれ、言ってなかったっけ、今日からレイ君はリラの従者さんをやることになったから、よろしくね❤」
「は?」
「よろしくお願いしますリラさん。」
「はああああああぁぁぁ‼?」
 こうしてレイとの共同生活が始まる。



さあ…運命の歯車がもうすでに回り始めている 
そのことは誰も知らない。そして
もし気づいたとしても…


―――もう誰にも止められはしない―――

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