T 運命の導き
ここはとある町のとある森の奥。詳細は後
ほど明らかになる。
鳥が歌い、清らかな川が流れる森に一人の少年はいた。
「やべぇ…」
この少年はリラ。 こちらも詳細は後ほど明らかになるが十六歳の青年だ。
黄金に光る髪はセットされているが自然に作ってあり、琥珀色の瞳からはその青年の強い意志が感じられた。
顔も悪くはない…とゆうよりきれいに整っており、そこらへんの女ならすぐにおちてしまいそうな顔立ちだった。
そして今、その少年…リラにとってはちょっとしたことなのだがとにかく危機に陥っていた。
(どうしよう…たぶん、いや、絶対に…)
「迷った・・・」
ここは“サウータ”と呼ばれる森で、草はぼうぼうと生い茂り、夜になれば全く光の入らない気味の悪い森と化す、
前に一人の旅人がこの森の中へと入り、その日からその旅人は姿を現さなくなったなどという噂もあるので、別名“迷いの森”といわれて、
一度入ってしまえばもう2度と戻れないと人々に恐れられている森であった。
こんな森で普通パニックになるものも少なくはないが、リラはこういう時のための対処のしかたを叩き込まれているのと、経験は数え切れないほどありので割と冷静にあたりを見回している。
でも、やはり何度経験したとしても一人とは心細いものである。
(…こういうのは北に向かって進んでいけば出られるんだよな…)
少し焦りながら、でも冷静に思考を回転させ、歩みを進めてゆく。
こうゆう時だけ己の人生に感謝するのはわがままだろうか?
なぜリラはこの“迷いの森“の奥深くにいるのかみなさんも気になっていたことだろう
…ことの発端は約30分前にさかのぼる…――
―――30分前―――
「んっ…――」
なんだか息苦しくて目が覚めると、どこから聞こえるのか、子守唄のような唄が聞こえてきた。
(まただ…)
この唄は2年以上も前からいつも決まってこの12月初めごろから2月の終わりごろまで聞こえてくるのだ。
リラは毎年その犯人を捜し出そうとするのだが、意気揚々と森に入ってみると、この歌はパッタリと止んでしまい、そして一番不思議なのが、朝になってそのことを近所の人に聞いてみても返ってくるのは“そんな歌は聞いていない”という答えばかりなのだ。
こんなことをしても利益も何もないと分かっているのだが、困ったことにリラはとてつもないほどの好奇心旺盛で、それに加えてここまでしたならその犯人を見てみたいという気持ちが膨れ上がってきているのだ。
そして、その気持ちは抑えきれず、どんなにぐっすり眠っていたとしても唄が聞こえてくれば本能的に目が覚めてしまい、もう自分でも何が何だか分からなくなってきており、制御がきかなくなっている。
(今日こそは…)
そして今日もその意味もない犯人捜しへと夜遅くから出発する。
…そうしているうちに自分のいる場所が分からなくなって迷ってしまったとゆうわけなのである。
そして、その肝心な歌もいつのまにか止んでしまっていた。
「うわっもう朝かよ!」
気がつくと森には薄く光が差し込んできていた。
(こりゃまぁたあのクソじじいに怒られる…)
そう、頭を抱えて悩んでいると、またあの唄が聞こえてきた。
(あ…近い。)
考える前に体が動いた。靴や服が朝露にあたって濡れるのも気にせず、
聞こえてくる方へと走る。
(もう少し…あと少し…―――)
道なき道へと進んで行き、やっと視界が開けた時、今までに見たことがないほどの景色が広がっていた。
―― ザアアッ
「……っ――」
そこは入口の方とは比べ物にもならないくらいの綺麗な湖と美しい森林が茂っていた。
「あ……」
そして、その景色の中には一人の…これもまた綺麗な美女が湖のど真ん中に立っていた。
遠くからしか見えないので顔がよく見えない事が、10代後半だとおもわれる。
一番に目が行くのは真っ白な髪だ。腰くらいまで伸ばしている髪は湖に反射した光があたってその美しさを際立たせる。
神秘的だった…
彼女が舞うたびに木々が揺れ、彼女が歌を口ずさむたびに風はざわめき、森全体が共鳴しているようだった。
こんな景色を見られずに死んでいった人が気の毒だと思ったほどだった。
そのままぼーっと見とれているとさすがにリラの存在に彼女が気付いた。
「あ…」
彼女も最初はあたふたとしていたが、リラが気付いた時にはもう遅かった。
「ちょ、待って――」
木の葉が彼女を包みこみ、激しい風がリラに向かって吹きつけてきた。
「うわっ!」
なんとか踏ん張って飛ばされなかったが目をあけるとそこに彼女はおらず、さっきの景色は何だったのか、枯れ果てた湖と、荒れ地が広がっているだけだった。
「さっきのは―――」
“なんだったんだ?”と言おうとした時、頭に激痛が走った。
「つっ―――‼‼」
耐えられないほどの痛みで、その場に倒れこむ。
「うあっ‼」
それでも痛みは悪化してゆき、そして、体の体温が急激に上がってきた。意識が遠くなる。
すると、頭に響く雑音とともに“声”が聞こえてきた。
『――な…―きは――んで…?』
(よく聞こえない…)
『…タス――に…い―ラ――』
(タス…助け?)
『…―と――言って…――…』
そう声が聞こえた瞬間、リラの口が開かれた。
「汝、我に遣わさん者よ、契約により託せられし力で我を導け」
「――…はい…主人(マスター)―――」
そう、声が聞こえた後、リラは意識を手放した。