テニスの王子様

□負けないくらい想ってたのに
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「おはよう」

「おはよー」



学校に向かう途中ですれ違うクラスメート。私は笑顔で挨拶を交わす。
と、前によく見慣れた人物を見つけたから私は走って飛びついた。



「おっはよ―、蔵!」

「うお!未来か」



見つけたのは同じクラスの白石蔵之助。
テニス部の部長らしい。
東京からこの四天王寺に引っ越して来た私は、席が隣になったのもあるけど蔵と意気投合。
あっという間に仲良くなった。


それに…私は蔵が好き。大好き。


端から見ている人は、私が蔵が好きな事は手にとるように分かるだろう。
なんたってあの忍足謙也にも気付かれたのだから。

でも、当の本人は気付いてない。
なんでこういうことに関しては鈍いんだろうね…。
でも私的には安心。



「毎日飛びつくなや」

「蔵を驚かせる作戦だもーん」

「おまえなぁ―…」



溜め息をつきながら蔵は言うけど、怒っている様子はない。

彼は優しいから。だから私はこの関係を壊すのは怖い。

私達はそのまま教室まで一緒に向かった。



「なぁ、未来」

「ん―?」

「今日部活はよ終わるねん。一緒に帰ろか」

「仕方ない。一緒に帰ってあげよう」


「なんやねん、それ」



蔵は笑いながら言った。


帰る方面が同じな私達はこうして時々一緒に帰る。それにしても久しぶりだな―。
正直私は嬉しくて仕方ない。

所謂照れ隠し。放課後が待ち遠しくて仕方なかった。



けどそんな放課後が、私にとって絶望に変わるなんて思ってもいなかった。




放課後、部活に入っていない私は蔵の部活を眺めながら時間を潰した。

こうして部活している姿を見ていると、部長だということに納得出来る。
部活も終わったのか、部員がばらつき始めた。

蔵の所に行こうと思って立ち上がったけど、それより早く一人の女の子が蔵に話しかけていた。


確か…マネージャーさん?
二人はコートから離れてどこかに行った。



気になって仕方ない、けど首を突っ込めるような立場じゃない私はその場で蔵が来るのを待った。

10分ほど経った頃、制服姿の蔵が私の前に来た。



「待たせてもたな」

「大丈夫―。帰ろ?」



私と蔵は肩を並べて学校を後にした。


帰りながら、私達をくだらない話しで盛り上がった。
部活で忍足君がアホなことをした、とか、相変わらず財前君が生意気、とか。


テニス部はよく分からないけど、蔵の話しでなんとなく愉快な部活だとは分かった。



「俺な、彼女出来てん」

「……………えっ?」



蔵の言葉に思わず私の足は止まった。



「さっき告られてん。俺ずっと好きやったからな…めっちゃ嬉しいわ」



そう言うと、本当に嬉しそうに笑う蔵に、私は何も言えない。
俯くしか出来なかった。



「未来には好きな子おらんのか?


…………未来?」



なかなか返事がない私を心配したのか、振り向いた蔵は首を傾げている。
私は俯きながら首を振った。



「あー、蔵に彼女か―。蔵にはもったいなさすぎ…」



私は顔を上に向けながら言葉を零す。
ゆっくり歩きながら立ち止まる蔵を追い越した。

そしてゆっくりと振り返る。





「よかったね!おめでとう!」





泣きたくなった。
でも泣かない。


ちゃんと笑えてたかな?




負けないくらい想ってたのに





(もう君は手の届かないところにいる)(大好きだったよ)



‐fin

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