短編

□罪の名を述べよ
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ずっとこの痛みを、苦しみを、恐怖を、抱いたまま生きていくと思うと死にたくなった。それでも生きていこうと思えたのは友人がいたから。必死に繋ぎ止めてくれたのに。




どしゃ降りの雨の中、路上でふらふらと覚束無い足取りで歩いていれば、誰かにぶつかった。慌てて見上げれば、瞳を揺らがせた男がいて。すまねぇな、と困ったように笑って、頭を撫でられる。
行く宛もない自分を近くのカフェに連れて行って席へ座らせた男は黒のスーツにワインレッドのワイシャツ、そして黒のネクタイをしていた。濡れた焦茶の髪は額に張り付き、それを掻き上げる姿は色気もあり、周囲の目を惹き付けるのには十分である。濡れたスーツのジャケットを脱いで、空いていた椅子に掛けるこの男は着痩せするタイプらしい。

「困ったなぁ、この雨じゃあ傘なんて差しても無駄じゃんか」

ぶつくさと文句を溢す男の目はもう、揺れていなかった。雨の中では見えなかった顔も、真向かいに座ればきちんと見えるわけで。赤い両頬、しかし片方は赤く腫れており、痛々しい。見続けてしまったため、男に笑われてしまった。

「あ、これ?これはねー…コイビトにやられたの」
「…恋人に手、上げるとか…最低だな」
「……最低なのは、俺の方だよ」

まるで、嘲笑するように。男は頬杖をついて自分を見る。また、揺らいだ目。

「全てを、許すことは俺には出来ない、……出来なかった。殺したのを憎んでいるわけじゃない、…利用されていたことなんて、とっくの等に知っていたさ。けど、それを言葉にされるのが嫌だった、ただ…それだけなのにな」
「…アンタは、臆病なだけなんじゃ、ねぇの?」

男は恋人に全てをさらけ出すことが、怖いのではないか。たった数十分前に初めて会った相手のことを理解するのは難しいけれど、そう思った。
臆病、と口にした男はくつりと笑う。

「…そうだな。俺は臆病なのかもしれない。…アイツに全てを委ねてしまうのが、怖いんだ。彼処で、俺は死んでしまえば、×××は一人にならなかった…?」

一人の死がきっかけで、壊れる関係。
それを修復するには、何が必要?




*****

見知らぬ少年視点で。男=結城です。
アニメ長編の予告編的な?
叩いたのは勿論征陸さんです(笑)

20121204
春坂アイシャ

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