短編

□その目に写るもの
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初めて彼を見た時、下手な笑い方をする奴だと思った。





「本日付で公安局刑事課一係に配属となった、監視官の高砂結城です」

宜しくね、なんてへらりと笑みを浮かべた青年は何かを隠したがっているようにも見えた。必死に、瞳の奥を探られないように笑みで隠し、友好的に接するくせして何処か、一線を引く彼。華奢だが俊敏性はあり、的確にドミネーターで対象者を捕らえるものの、確保してもまぐれだ、と言い張る結城はやはり、周囲と一線を引きたがった。けれど、一線を引きたがる割りには執行官が怪我をするとなれば感情移入は激しく、やたらと構うのだ。

「あは、今日は征陸さんとかぁ。俺、サボれないじゃん」

そう言って、無邪気にケラケラ笑う彼に何故か、無性に腹が立った。壁へと肩を押さえ付け、笑うなと声を低めにして言っても結城は、笑うことを止めなくて。軽く脅してみよう、と首に手を回してみても彼は、泣き喚いたり恐怖したりしなかった。ただ、じっと此方を見るだけ。

「…俺が、泣き喚くとでも思った?」

瞬間、先程の笑みを消し去って見たことのない顔をした結城は普段の彼とはかけ離れている。別人のようだ。
首に回した手を離し、自分は困惑した。目の前にいる男は誰だ、と。

「アンタは…誰だ?」
「俺?俺は高砂結城だけど?あの、へらへら馬鹿みたいに笑ってる十宮高砂だ」

然(さ)も、何馬鹿なこと言っているんだと言うような言い方である。
力を籠めてしまえば呼吸が出来なくなり死に至る、なんてことは彼も分かっていただろう。だが、結城は命乞いするわけでもなく、喚くわけでもなく。ただじっと、見るだけだった。

「俺がアンタを絞め殺すとは、思わなかったのか?」
「別に」
「…恐ろしいと、思わないのか」
「ハッ、思わねぇよ。…お前はそんなことをする野郎じゃねぇことくれぇ、分かってるし」

鼻で笑われ、遂には呆れ果てている彼に唖然とした。この男は、死への恐怖というものがないのか。そういった概念を持ち合わせていないのだろう、目の前で欠伸を噛み締めている始末だ。
眠たそうに目を擦り、伸びをする結城は何処にでもいる青年に見えるが、彼が抱えている心の闇は深く、決して底の見えないものかもしれないと征陸は思った。

「(……全く、厄介な奴が入ってきたもんだ)」





**********

→征陸と結城のファーストコンタクト。
食えない奴だなー、とは思いつつ、非番の日に見せる年相応且つ幼さの残る、普段の偽っている顔とは違う、素の表情に驚きを隠せないけれどそれに惹かれる征陸さん(笑)
結城はあれです。ツン9割でれ1割(好きな人の前のみ)というツンデレさん。包容力がある人に惹かれるのは父親を早くに亡くしていることもある。


相変わらず征陸さんの口調が迷子ですが、すみません(汗)


20121104
春坂アイシャ

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