07/23の日記
23:14
もくり小話あつめ
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◆追記◆




○カーテン○


眩しくて、しかし心地良い。瞼を上げれば、先程までの忌々しいあの場所は夢の中だったと分かる。眩しさの原因はベルドランがカーテンを開けたから。

「おはようさん。飯できてるぞ。」
「……ああ……」

恐らく、険しい顔で目が覚めない俺を自然に起こそうとしたのだろう。以前、悪夢の最中に肩を掴まれて咄嗟に殴った事がある。普段からそのくらい警戒されるのが普通だったからか、ベルドランの距離感があまりに近くて混乱する。
掌でまだ明るさに慣れないふりをして目元を覆う。

「おはよう。」

平穏な朝が眩しい。



○遺言○


「じゃあな。」
「おう。また来いよ。」

シュウは大抵、確約出来ない時は次の話をしない。わざわざ俺にまで嘘をつく必要がある時は別だが。……またどこか危ない橋を渡る気でいるな。
分かっているから俺の方から「また」と言う。シュウはいつも《いつ終わりでもいい》つもりで悔いなく過ごしてるつもりだと言う。会う度に遺言みたいに全力でやってるのかと呆れたのを覚えてる。

お前さんが無事で帰ってくる様に、願掛けくらいさせろ。




○林檎○


真っ赤で甘くて酸っぱくて、目が覚める。

「ルッツ、リンゴみたいだ。」

全身赤くなったルッツが美味しそうで、頬や首、胸に甘噛みする。

「ッ……ば、か、ひゃっ……」

繋がったままで逃げられないルッツが、僕の下で身をよじる。ルッツの中は離れたくなさそうにしているのに、口では嫌がる。
弱い所を沢山触っていくとどんどん抵抗しなくなるのが可笑しくて、夢中になる。

「……っ、ぁ…ぅ」
「ルッツ?」

ふいに、くたりとルッツの全身の力が抜ける。寝てしまったらしい。

「仕方ないな、おやすみ。」

そうして、最後まで出来なかった翌朝に、攻めすぎて呼吸困難で気絶させてしまっていた事を告げられる。夢中過ぎて、ルッツの息を止めさせてたなんて気が付かなかった。ルッツに「殺す気かよ」と言われて、途端に怖くなった。



○白昼夢○


パルトスのアイテム協会本部にルッツが出張で来ると聞いたので、食料の買い出しついでに顔を出す。元々兄が働いていた職場だけに、顔馴染みが多い。

「ヴェルハルト?」

一瞬、そのくたびれた白衣の細身のシルエットに兄の姿が重なって見えた。

「……背が伸びたな、ルッツ。」
「伸び盛りだから当然だって、そういや目線の高さ一緒になった?次に会う時には追い抜いちゃってるかもな!」

機械油や薬草の匂いが混ざるこの場所が、兄との思い出に満ちてるからか。ルッツの身長が兄に近付いたからか。酷く懐かしい。

「今晩、家に来るか?」
「え、何?晩飯おごり?」
「夜に家に誘っておいて食事無しなどありえないだろう?」

そう言うと笑顔で「にひひ、ゴチになります!」と答えが返ってくる。こちらの動揺に気付いているのか、ごく軽く扱われる。

「んじゃ、喋ってたら仕事終わんねーから働きますかー!夕飯期待してるぜー?」
「ああ、後でな。」

思い出が呪縛になる前に出口に向けて背中を押してくれる。余計な事を考え過ぎないように「夕飯の事を考えろ」という指示まで付けて。

「……何にするか。」

元々買い出しに来た訳だが、買い物予定が頭から殆ど吹き飛んでしまった。ルッツの好きそうなメニューを考えながらマーケットに足を向けた。




○街灯○


店じまいは当然ながらいつも深夜。
仕事を終えて家に帰る道は街灯が有っても暗く、人通りもない。薄い雲の切れ間に星が僅かに見える。

「───」
「──!」

ビルとビルの間の闇から、物騒な何かの気配。争い事か一方的な襲撃か下水からスライムでも出たかもしれない。どちらにしても、私が割って入る義理はないわね。
巻き込まれない内にとっとと離れた方がいいわ。

ヒールの足先を意識して、足音を小さくして早足で進む。

──闇がこちらを見ている気配を完全に無視する。気付いてないフリをしないと、消される程の“何か”だった場合はかなりまずい。

……まさか足音を小さくしたせいでバレてるなんてその時は思わなかった。
まして、その闇の主にスパイの手解きを受けることになるなんてね。




○傘○


雨の多い屑鉄の街で、傘をさす人は少ない。
まして、その男がさしているのは一般的な布張りの雨傘や日傘ではなく、紙が張ってあるスメリア式の傘だ。指名手配犯の癖に全く隠す気がないほど目立っていた。

普段からその調子で着物も手配書と同じのまま、あまりにも堂々と歩いていた。

「ボサっと突っ立ってどうしたんだ?」
「いや、何でもない。」

まさか物資の買い出しに、革のジャケットとデニムパンツで現れるとは思わず、頭から足まで一往復ゆっくり見てしまった。普段下ろしていた髪も結っている。

「ん?見慣れねぇか?」
「……ああ。」
「まあ、たまには良いだろ?」

気を悪くする様子もなく、からりと笑って 歩き始める。

「でけえカバン使うくらい買い込む時は、着物だと邪魔になるからな。」
「考えがあったのか。」
「おいおい、いくらなんでも馬鹿にしすぎだろうが。」

軽口を叩きながら、街の喧騒に紛れる。今日は目立つ忍者も侍も居ない。




お題20:55
「傘」書き終え時間22:53

23時までのタイムアタックで6ネタ書けました。

2023/07/23 23:14
カテゴリ: 小話の類い
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