金星(文)
□愛しき者を抱く様に……
1ページ/1ページ
私は、職場(スーパーの裏方)で、重い物を持つ機会が多々ある。
私の背が、低いこともあって、少々難あり。
その日も、高所にある醤油の段ボールを降ろさんとしていた。
そして、いつも以上に苦戦していた……
…ら、職場のおじさんが荷物を取ってくれた。
「…有難うございます。」
まさか、これだけの為にわざわざ手伝ってくれるとは思って無かったので、ちょっとビックリしたが、素直に礼をする。
おじさんは、笑って言った。
「なぁに、重い物を持つ時は、コツが有るんだよ。」
私は、『話が急な人だな』と思いつつも、「そうなんですか?」と相槌を打った。
「そう。
“愛する人を横抱きにする”つもりで持てば良いんだ。」
(今、何と?!)
思っただけで口にはしなかったが、私の耳が悪くなったわけではないらしい。
おじさんが尚も続ける。
「どんな重い荷物も、恋人抱いてると思えば軽いもんだから。」
首からタオルをひっ下げた、労働する気満々スタイルのおじさんが、爽やかな笑顔で断言する。
とても否定出来ない、無駄にあふるる説得力。
「私、恋人居ませんけどね。」
根っからのオタクですから、と言いそうになったが、辛うじて踏み止まった。
「ははは、その内見つかるさ!」
やはり笑顔で断言。とてもかなう気がしません。
素敵なネタを有難うおじさん。
一瞬にして妄想が広がったよ。
そのひ一日、色々愉快な妄想が脳内を駆け巡った効果か、荷物が軽かったです(笑)。
重い物を持つ機会が有ったならば、是非、お試しあれ。