金星(文)

□愛しき者を抱く様に……
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 私は、職場(スーパーの裏方)で、重い物を持つ機会が多々ある。

 私の背が、低いこともあって、少々難あり。


 その日も、高所にある醤油の段ボールを降ろさんとしていた。
 そして、いつも以上に苦戦していた……


 …ら、職場のおじさんが荷物を取ってくれた。


「…有難うございます。」

 まさか、これだけの為にわざわざ手伝ってくれるとは思って無かったので、ちょっとビックリしたが、素直に礼をする。

 おじさんは、笑って言った。

「なぁに、重い物を持つ時は、コツが有るんだよ。」

 私は、『話が急な人だな』と思いつつも、「そうなんですか?」と相槌を打った。



「そう。
 “愛する人を横抱きにする”つもりで持てば良いんだ。」



(今、何と?!)


 思っただけで口にはしなかったが、私の耳が悪くなったわけではないらしい。

 おじさんが尚も続ける。

「どんな重い荷物も、恋人抱いてると思えば軽いもんだから。」


 首からタオルをひっ下げた、労働する気満々スタイルのおじさんが、爽やかな笑顔で断言する。


 とても否定出来ない、無駄にあふるる説得力。


「私、恋人居ませんけどね。」

 根っからのオタクですから、と言いそうになったが、辛うじて踏み止まった。


「ははは、その内見つかるさ!」

 やはり笑顔で断言。とてもかなう気がしません。



 素敵なネタを有難うおじさん。
 一瞬にして妄想が広がったよ。


 そのひ一日、色々愉快な妄想が脳内を駆け巡った効果か、荷物が軽かったです(笑)。


 重い物を持つ機会が有ったならば、是非、お試しあれ。
 

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