胡蝶の夢

□春の訪れ
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「新春も間も無く明けるし、もうすぐ春か……早いものだな」
「幸村殿!」
幸村が部屋で庶務をしている所に上から何かが降って来た。いや、誰かと言うのが正しいだろうか。




甲斐姫に仕える光の伝令、浅葱だ。
「浅葱か、急にどうしたんだ? 自分の所に来るなんて」
「いや、姫様んトコの小雪ちゃん、親御さんが体調崩したとかで今里に下がってるんスよ。だから今は代理です」
「そうだったのか。じゃあもしかして……」
「へい、姫様からの文ですぜ」
「済まぬな」
「いいえ。んじゃ、俺はおっかない主が待ってるんで行きます。失礼!」
浅葱はさっさと退散し、部屋に静寂が戻る。
幸村は一息吐くと、手元に残った文を開いた。
何やら良い香りが辺りを漂う。




「この香は……この文からか?」
幸村は内容に目を通し、思わず口許を緩ませる。
彼女の手紙にこんな奥ゆかしさが含まれているとは。




「そうか、もうそんな季節か……春が待ち遠しいな」
幸村は視線を外して外を見る。そこからは温かな日の光が間も無く来る芽吹きの時期の到来を教えていた。















代わって此所は東国一の美姫の住まう忍城。




「ふんふん、んん〜」
「姫様、随分と今日はご機嫌が宜しゅうございますわね」
「まぁね」
甲斐姫は稽古の花を生けながら外を見た。そこには間も無く開く綻んだ蕾。




「早く春が来ないかなぁ……」
春は雪が解け、愛する貴方に会える季節。
未だ見ぬ花に想いを馳せながら、甲斐姫はパチンと茎を切った。













『幸村へ

もうすぐこちらでは沢山の梅が咲くの。早く雪が解けて、貴方と梅見がしたいわ。
貴方にも、私にも、春が来ますように。

甲斐』










〜End〜
 

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