宝物(小説)

□熱湯温度
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仕事疲れを癒す、優雅な一時になる筈の風呂。

それなのに湯舟の中、目の前に座る男には深い溜息しか出ない。

『何故、君と風呂に入らないといけないんだ?』

『時間の節約ですよ。それに俺も、早く風呂に入りたいし』

『・・・それなら先に入ればいいだろう?』

『ん?何か言ったか?』

コイツは人の話を聞かないのか?

無理矢理に脱がされた挙げ句、風呂場に放り込まれた。

「絶対、私に手を出すなよ?出したら、直ぐに追い出すからな」

「本当に信用ないですね。手は出しませんよ」

ヒラヒラと両手を振るい、表明のお湯を揺らめかす。

「・・・。それなら、いいが・・・っ!!」

狭い湯舟で佐伯が足の位置を変え、右足が私の足の間に伸ばされる。

「どうかしました?」

「・・・」

無意識か?計画的か?

「何でもない」

顔を逸らし、少しだけ腰を佐伯から離す。

けれど離れた分、また足先が伸びる。

固い爪が微妙な加減で私のモノに当たり、鼻歌のリズムを取る佐伯の足がお湯を掻き乱す。

(コイツは絶対に計画的だ)

だが万が一にも無意識なら、この後の佐伯は不機嫌まっしぐらになってしまう。

けれど案の定、足先が撫でる動作に変わってくる。

軽く佐伯を睨むと、どこ吹く風で鼻歌を口ずさむ。

「触るな・・・っ、と言っただろ」

「違いますよ、御堂さん。手を出すなだろ?」

佐伯は喉を鳴らして、湯舟の底に先端を擦り付けたり、固い爪で裏筋を辿っていく。

「そ、んなの・・・っっ。言葉の・・・、綾だっ」

浴槽と佐伯の足に挟まれ、熱いお湯が奔流する。

人差し指を噛み、上がりそうな声を我慢すると、裸眼の蒼い瞳が細められた。

「俺の足でも、感じれるんですか?」

「や、めろ。・・・茶化すな、っ」

綺麗なお湯が汚れていく。

それは自分の欲望の所為で。

ぬめる液体が底に沈み、不意に佐伯の足が畳まれる。

「さて、もう上がります?」

「・・・。此処までするなら・・・、最後までしろ・・・。バカが・・・」

「ククッ、喜んで」

どうせなら、コイツの欲望も混ぜてやりたい。
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