贈り物

□いつもの、日々
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今日のメニューは、ピーマン入りのシチューとサラダ。
でも…ウサギさんは…。


「いつもの、日々」


「あーっ!!ウサギさん、何でピーマンよけてんだよ!」

目の前に座って食事をするウサギさんの皿には、ある意味天才と言っていいほど綺麗によけられたピーマンたちが、山を作っていた。

「嫌いだから」
「嫌いでも食べろよ!」
「イヤだ」

ウサギさんは、俺がそう言ってもピーマンの仕分けをやめない。

「…ウサギさん、あなた今年で何歳ですか?」
「28だが?それがどうした?」
「28にもなって『ピーマン嫌い』って理由が通じるとでも思うかっ!!」

(この坊ちゃん先生が!!)

俺が声を荒げても、ウサギさんは驚きもせず、

「落ち着け美咲。そう怒っても何も始まらない。
…まぁ、俺も"ピーマンを絶対に食べない"とは言っていないぞ」

俺はその言葉を聞いて、怒りをかなり抑えながら聞いてみる。

「じゃあ、どうしたらそのピーマン食べてくれる?」

答えは、薄々分かりながらも。

「美咲が『アーン』ってしてくれたら」

やっぱり(怒)


「それをやるとでも思いですか、先生」
「いいや、お前がやるとは思っていない」

(思っていないんだったら、最初から言うなよ!!)

再び声を荒げそうになる自分を無理やり落ち着かせようとする。

…そうでないと、ピーマンの山を口の中に放り投げてやりたくなったから。
ふぅ…と1つ溜息を着くと、ウサギさんが口を開いた。

「だってお前は勇気が無いだろう?だから『アーン』なんてまねは出来ると思っていない。
…違うか?」

「うっ…」

…確かに、俺には勇気なんて無い。だから、ウサギさんの言うことは間違っていない。
でもここで食い下がったらウサギさんに負ける気がして、俺はイスから立ち上がりキッチンへ向かった。

後ろの方で驚いたような声が聞こえたが、それは無視しておこう。
そして、スプーンを持って行くと、ウサギさんはにやりと笑う。

(…何か、すごく負けた気がする)

でも、ここでやめても何か悔しい。
俺は震える手でピーマンをスプーンに掬い「アーン…」とさせた。
すると彼は再びニッコリと笑い、形のいい口を開く。
その中にピーマンを入れると、彼は一瞬嫌な顔をしたが何回か咀嚼し、飲み込んだ。

「ど…どう?」
「…ダメだ…。やっぱりピーマンは嫌いだ」
「あー…そう」

その言葉に何かが切れた俺は、皿の上のピーマンを全部シチューの中に戻してやった。

「…」

ウサギさんがうらめしそうな目でこちらを睨むが、それも無視。

「美咲…」
「何」
「…後で、お仕置きだ」
「……!!!!」



兄チャン、命の危険を感じます。


もう2度とあんなことはしないと心に強く誓った高橋美咲、18歳の秋であった。

END

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