宝物(小説)
□一輪の花束
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《一輪の花束》
「フン〜♪フン〜♪」
鼻歌混じりに、食卓へと皿を運ぶ。
帰宅途中に御堂さんを花屋で見掛け、今日はいい事があるかもと思っていたからだ。
「花瓶あるかな?でも先走ったら、見たのバレるよな」
ちょうど彼が薔薇の花束を抱え店を出て来たので、自分へのプレゼントだろうかと考えていた。
「貰えたら、嬉しいけど・・・。でも違ってたら、ちょっと複雑かも・・・」
う〜んと悩んでいる内に、玄関が開く音がする。
「あ、お帰り・・・なさい」
「ただいま」
玄関まで出迎えると、朝の様子と同じ彼がそこに居た。
(花束ないな・・・、誰に渡したんだろ)
赤い真紅の、薔薇の花束。
花言葉は、真実の愛。
(女の人かな・・・。だとしたら・・・浮気とか)
頭に浮かんだ二文字を、まさかと思い否定する。
(でも薔薇だし、それに花束なんだよな)
「克哉」
(違うのが混ざってたら、何も思わないんだけど・・・)
また一人う〜んと悩むと、不意にいい匂いが漂う。
「ん?」
「貰い物で悪いが、1本だけ頂いてきた」
「薔薇だ・・・」
綺麗に棘が抜かれた薔薇を貰い、花びらから匂いを確かめる。
甘く豊潤な香りに、思わず口元が緩んだ。
「ありがとう、孝典さん」
貴方から貰った一輪の花は、いつも誇らしげに咲き続けている。