宝物(小説)

□一輪の花束
1ページ/1ページ


《一輪の花束》


「フン〜♪フン〜♪」

鼻歌混じりに、食卓へと皿を運ぶ。

帰宅途中に御堂さんを花屋で見掛け、今日はいい事があるかもと思っていたからだ。

「花瓶あるかな?でも先走ったら、見たのバレるよな」

ちょうど彼が薔薇の花束を抱え店を出て来たので、自分へのプレゼントだろうかと考えていた。

「貰えたら、嬉しいけど・・・。でも違ってたら、ちょっと複雑かも・・・」

う〜んと悩んでいる内に、玄関が開く音がする。

「あ、お帰り・・・なさい」

「ただいま」

玄関まで出迎えると、朝の様子と同じ彼がそこに居た。

(花束ないな・・・、誰に渡したんだろ)

赤い真紅の、薔薇の花束。

花言葉は、真実の愛。

(女の人かな・・・。だとしたら・・・浮気とか)

頭に浮かんだ二文字を、まさかと思い否定する。

(でも薔薇だし、それに花束なんだよな)

「克哉」

(違うのが混ざってたら、何も思わないんだけど・・・)

また一人う〜んと悩むと、不意にいい匂いが漂う。

「ん?」

「貰い物で悪いが、1本だけ頂いてきた」

「薔薇だ・・・」

綺麗に棘が抜かれた薔薇を貰い、花びらから匂いを確かめる。

甘く豊潤な香りに、思わず口元が緩んだ。

「ありがとう、孝典さん」



貴方から貰った一輪の花は、いつも誇らしげに咲き続けている。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ