風林火山
□第一夜
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「……………暇だ。」
ベッドに寝転びながら、私は呟いた。
漫画を読みながら言う台詞ではないと自分でも思うが、暇なものは暇なのだ。仕方がない。
「う〜…」と小さく唸りながらそんなに広くないベッドを転がっていると、ベッドの下の方からちりん、と控え目な鈴の音が聞こえた。
何かと思ってそちらを見れば、目に入ったのは綺麗な金色。
アーモンド型の緑の瞳が、私を心配そうに見つめていた。
私は慌てて起き上がり、彼の頭を撫でる。
「ケイト、大丈夫だよ。具合悪いわけじゃないから。」
「にゃー…」
まるで「本当に?」と言うように、ケイトは首を傾げる。
本当だよ、と言いながら私はケイトを抱き上げた。
私の奇妙な行動の所為でケイトを心配させてしまったようだ。
何だか申し訳ない。
抱き上げたケイトの首には、小さな鈴の付いた赤い首輪。先程の音の正体はこれだったようだ。
先日、猫用品と一緒に買ってきた首輪。店内でふと目に入って、ケイトに似合いそうだと手に取ってしまった物だ。
思った通り、金色の毛に赤い首輪がよく映えている。
カーテンが開けっ放しの窓を見れば、見える青い空。天気はよくて、雨が降る様子はない。
腕の中で、どこか暇そうなケイトを見て、私は口を開いた。
「……ケイト、お散歩行こうか!」
何故そんな事を言ったのか。普段の私なら、絶対しない発言だった。
だけど、自然とその言葉が口をついていた。
暇そうなケイトを思っての事だったのか。
それとも、心のどこかで、予感していたのか。
『彼ら』との出会いを。