おきつねさまの恩返し
□序章
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「……こんにちは、おきつねさま。」
唯一わらわの元へ何度も足を運んでくれる少女が哀しそうな顔で笑った。
優しい笑顔に陰が差し、今にも泣きそうで、消えてしまいそうで。
「今日もおいなりさん、持って来ましたよ。」
思わず、どうしたのだと問おうとして、口を噤んだ。
……問うたところで、この少女にわらわの声は、……届かない。
「…………あのね、おきつねさま。」
まるでわらわの問いに答えるかのように、彼女は口を開いた。
やはり哀しそうに、無理矢理口角を上げながら。
「私、……ひとりに、なってしまいました。」
そう、告げた。
その声は震えていて、分からないと知っていても、見えないと分かっていても、傍に寄り添った。
見てられなくて、此方まで泣きそうで。
何と無くかも知れないが、君はわらわを見て、
…くれたような、気がした。
はじめて、笑みが消えて、泣きそうに、ぽつりと、君が呟く。
「………ひとりは、嫌だなぁ…。誰か…傍に居てくれないかな…。」