小話集

□夕凪
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今思えば、ソレの予兆は随分前からあったと思う。
だけどあたしが違和感を初めて感じたのは、高2の冬休み。粉雪が舞う寒い日だった。



この日あたしは、紗代の家で朝から勉強会をしていた。テストが近いからと言うのが建前。本音は久しぶりに会って話をしたかっただけで、全然勉強なんてしてなかったけど。

ちなみに紗代は、幼稚園からの付き合いで皮肉屋なあたしとは180度違って、屈託が無い素直で明るい性格。そして、あたしの親友。

彼女の家は弟妹が多く、どちらかと言うとあまり裕福でないことから中学を卒業して直ぐに地元の准看護学校に進学し、医師会から奨学生という形で学費の援助を受け、生活費を稼ぐために病院で働きつつ学校に通っていた。



「…あのね美月、ちょっといいかな?」と妙に神妙な表情の紗代。
あたしは意味もなく紙の上で滑らせていたシャープペンシルを置き、顔を上げる。

「別にいいけど、何?」
「今度お父さんが再婚することになったの」
「へぇ…良かったじゃん、おめでとさん。で、何か問題でも?」
おめでたい話なのに何故か浮かない顔の親友に、あたしは茶化すように質問を投げつける。

それに対し、紗代はおかしなことに絶対に笑わないでよと念を押した。あたしは面食らって何も言えなくなり、目で了解と返事をした。


「甘え方が…分からないの」
「………ぶっ」
「わ…笑わないって言ったのにっ、あんなに念押したのにっ。ちょっと…紗代酷いよ」

あたしは溢れ出す涙を拭いながら、笑い転げる。
だってだって、あんな表情してたからもっと重要だったり、深刻なことだと思ったら……予想外だったもの。

紗代はあたしが落ち着くのを半分冷ややかな目で、半分諦めた目で見つめ、再び口を開く。


「今まで長女だから弟や妹達の面倒見たり、家事をするのが当たり前で家族に甘えたことが無いの。
それなのにね…新しいお母さんとお兄ちゃんが出来て、家族が増えて、甘えても良いって言われても……って聞いてる?」
「ん?聞いてなかった」
「もう」
「嘘だよ、ちゃんと聞いてた。別にさ直ぐに甘えられなくても良いんじゃないの?
今まで他人同士だった人達だし、少しずつお互いを知ってからでも遅くないとあたしは思うよ」

まあ、変に気を張らずにいきなよとあたしは最後に呟き、口笛を一つ意味もなく鳴らした。
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