小話集

□大人と子供
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「おい、起きろよ吉乃」

いつもと何の変わりの無い日常が、今日も訪れる。
二日酔いが残る吉乃は、無理に起き上がり、目を見張る。……そこには、彼にとって非日常的現象が広がっていた。

「麗ちゃん……?」
「違う、中身は僕だ。事情を説明しろ吉乃、手短にな」

麗は双子の兄である蓮の服に身を包み、立ち振る舞いのそれはまさしく生き写し……むしろ本人光臨であった。



話は本日未明に巻き戻る。
仕事を終えすっかり午前様の吉乃は、ホストクラブやスナックが立ち並ぶ、いわゆる繁華街に足を伸ばす。『仕事』で十二分に呑んだのだが、どうにも足りなかったようである。

「さてここにしますか」

既に相当量のアルコールが入っていたのだが、判断能力は健全だったので、迷うことなく寂れた路地裏に直行する。
そこには同じく寂れた屋台。『おでん屋』の暖簾に年季の入ったダンボールが張り付いており、『あなたの願い叶えマース』と書かれていた、血文字で。
更に店主は、何故か紫のベールを被ったアラビアンナイト風の女で……見るまでもなく胡散臭さ抜群であった。
瞬間、危ない場所と悟った吉乃は曖昧な笑顔を浮かべ立ち去ろうとしたが、それは叶わぬ夢に散った。


ある意味では、治外法権な価格の熱燗とおでんを振る舞われ、苦笑いの吉乃と相反するように上機嫌な女店主。

「おにーさん、悩みアルね」

気分を良くしたのか、満面の笑みを浮かべ話しかける女店主。ほんの僅かに戸惑いの色を滲ませたが、瞬時に営業スマイルを浮かべ、吉乃は「そうですね」と返事をする。

「じゃあワタシ解決するね、お題はイラナイ」
「ははっありがたいですね」


それから女店主は何やら妖しい呪いを二、三呟き……気付けば吉乃は自室のベッドの住人となっていた。
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