小話集

□夕凪
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それにしてもと呟き、あたしは紗代の左肩を小突く。

「えらく余裕あるんだね、2月に資格試験じゃなかった?」
「全然っ余裕なんて無いよ、忘れていることの方が多いし……この前のテストなんて、クラスで一番点数が悪かったんだよ〜」
お陰で呼び出されたの、と肩をすくめておどけた口調で言う。



その時は同情したけど。
後に聞いた話によると、そのテストの結果は90点。ちなみに満点が100点に設定された、資格試験の模擬テスト。
…どんだけエリートが集まってんだか。



「そう言えば美月は学年次席じゃなかった?ちゃっかりしてるよね〜」
「まあ……そーだけど」
「そこ認めるんだ、否定しようよ…」
「最後まで人の話を聞いてよ。学校の勉強、それこそ格式張った教科書の勉強なんて出来ても意味ない。現に、『甘え方』を友人に伝授すら叶わないのだし」とあたしはイタズラっぽくにんまりと笑う。

さて、これから紗代はどう出る?


一瞬ぽかんと口を開け、次に思案し、眉を寄せ、頭を抱え込み、最後に赤面。
うん 100点満点のナイスリアクション。
「もぉ〜美月なんて嫌い〜」とポカポカと私の両肩を叩き続ける。
多分…本の当人は、至って真面目に照れ隠し、と言う名の制裁を加えているのだろうけど。
丁度良い力加減で、心地よい肩たたきになっている。


どれくらい時間が経ったのだろうか、外はすっかり闇色に染まる頃。
紗代のお父さんがひょっこり現れ、紗代をあたしから引き剥がした。

「やあ美月ちゃん、久し振りだね」
「おじさんこそ、お久し振りです」
「もう暗いし、そろそろ帰りなさい」
「はい、分かりました。その前に…解放してあげて下さい、紗代落ちています」とあたしは指を指す。

その先には、おじさんと関節技をかけられ、目が明後日の方向を見つめている紗代が居た。





あたしと紗代は横並びで家路につく。
見送りは不要と言ったのに、弟が一緒だから平気と断言し聞き入れてもらえなかった。

「うぅ…酷い目に合った」と涙目になって、首をさする紗代。
「相変わらずパワフルだね、おじさんは」
「でもさー、兄ちゃんの方が強いんだぜ」
「そうなんだ、良かったね。…おっともう家だ、紗代送ってくれてありがとう」

「どういたしまして、じゃあね」
「うん、バイバイ」
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