小話集

□My sister!
4ページ/4ページ

顔を床に密着させたまま、ピクリとも動かない簀巻き状態の吉乃。
蓮はそっと頭を踏みつけながら、ゴソゴソと茶封筒を漁り、吉乃の黒歴史が詰まったVHSを取り出す。

「美しく散ったな、吉乃。ストレスは人生のスパイスだ、甘んじて受け取れ」と言い、そっと床に置いた。


「蓮もある意味ではいい性格してるな、それコピーの方だろ」
「まあね、千歳兄さん。使えそうな物を僕が、そう易々と手放すわけがないだろう」

一部始終をバッチリ目撃した麗は底知れぬ狂気を感じ、千歳の陰に隠れてその場から逃げだそうとした、が……
「逃げたらこうなるぞ」と蓮からありがたくない一言を頂き、それは阻まれた。思わず本日、二度目の涙目となる。

見かねた千歳がヤレヤレと助け船を出す。
「おい、蓮。あんま麗を虐めるな」
「虐めてなんかないって。これはあくまで日常会話」
「そんな事言ってると…夕食を蓮が嫌いなアレにするぞ」

千歳の一言に露骨に嫌な顔をする。
「アレだけは嫌だ」
「だったら、今日ぐらいは意地悪は控えておけ」
「分かったよ…千歳兄さん」


場の空気が丸く納まりつつあった頃。
空気が読めない吉乃が、復活した。

ヨロヨロと生まれたての子鹿のように立ち上がると、満面の笑みで話しかけてきた。

「言い忘れていたんですけど、蓮さんの『大好物』のアボカド持って来ましたよ〜」





次の日

吉乃の姿を見た者は居なかった。








■後日談

「ねえ、ちぃ兄。どうして蓮ってアボカド嫌いなのかな?」


こんなに美味しいのにねとニコニコ笑いながら、麗はアボカドを食べる。

「それは…」と一瞬言葉に詰まる千歳。

するとひょっこりと噂の人物が現れ、吉乃を引きずりどこかに行ってしまった。

去り際に、麗のせいだと吐き捨てて。


「そ…それってどーゆうこと?」と絶句する麗。


千歳は、はぁ…と息を吐き事の顛末を語る。

「一時期、今よりも麗の偏食が酷くて…主食がアボカドだったことがあったろ?それが原因」


その時、麗は初めて気が付いた。そして同時に察した。



「だから蓮って意地悪なんだ…」


【終】

前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ