小話集
□My sister!
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顔を床に密着させたまま、ピクリとも動かない簀巻き状態の吉乃。
蓮はそっと頭を踏みつけながら、ゴソゴソと茶封筒を漁り、吉乃の黒歴史が詰まったVHSを取り出す。
「美しく散ったな、吉乃。ストレスは人生のスパイスだ、甘んじて受け取れ」と言い、そっと床に置いた。
「蓮もある意味ではいい性格してるな、それコピーの方だろ」
「まあね、千歳兄さん。使えそうな物を僕が、そう易々と手放すわけがないだろう」
一部始終をバッチリ目撃した麗は底知れぬ狂気を感じ、千歳の陰に隠れてその場から逃げだそうとした、が……
「逃げたらこうなるぞ」と蓮からありがたくない一言を頂き、それは阻まれた。思わず本日、二度目の涙目となる。
見かねた千歳がヤレヤレと助け船を出す。
「おい、蓮。あんま麗を虐めるな」
「虐めてなんかないって。これはあくまで日常会話」
「そんな事言ってると…夕食を蓮が嫌いなアレにするぞ」
千歳の一言に露骨に嫌な顔をする。
「アレだけは嫌だ」
「だったら、今日ぐらいは意地悪は控えておけ」
「分かったよ…千歳兄さん」
場の空気が丸く納まりつつあった頃。
空気が読めない吉乃が、復活した。
ヨロヨロと生まれたての子鹿のように立ち上がると、満面の笑みで話しかけてきた。
「言い忘れていたんですけど、蓮さんの『大好物』のアボカド持って来ましたよ〜」
次の日
吉乃の姿を見た者は居なかった。
■後日談
「ねえ、ちぃ兄。どうして蓮ってアボカド嫌いなのかな?」
こんなに美味しいのにねとニコニコ笑いながら、麗はアボカドを食べる。
「それは…」と一瞬言葉に詰まる千歳。
するとひょっこりと噂の人物が現れ、吉乃を引きずりどこかに行ってしまった。
去り際に、麗のせいだと吐き捨てて。
「そ…それってどーゆうこと?」と絶句する麗。
千歳は、はぁ…と息を吐き事の顛末を語る。
「一時期、今よりも麗の偏食が酷くて…主食がアボカドだったことがあったろ?それが原因」
その時、麗は初めて気が付いた。そして同時に察した。
「だから蓮って意地悪なんだ…」
【終】