小説庫(書く所)
□※小さな獣はお好き?
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「一くん、なにそれ」
今日は珍しく何もすることがない。
巡察もなければ副長に提出する書類もない。
それはそれで仕方なく、とりあえずは暇なので昨日の夜の巡察のせいで少し重い身体を起こし朝から散歩でもしに行くかと布団から出、着流しに着替え廊下を歩いているとばったり会った総司にそんなことを言われたのだ。
「?意味がわからんのだが…?」
「いや、その…ていうか一くん、気づいてない…とか?」
俺を指さして総司は微妙な笑顔を浮かべながら俺の問いに対して質問で返してきた。
総司が指をさしているのは、二ヶ所。
俺の頭と…腰辺り。
不審な目で見つめてくる総司になんだか嫌な予感が募ってきて、何もないようにと願いながら己の手を持っていくと、どうやら俺の願いは虚しく虚空に消え失せ、なんと所謂猫の耳と尻尾が頭と尾骨あたりに耳と尻尾がついていた。
――否、生えていた。
「……!!?」
冗談じゃない。こんな格好で散歩になど出られたものではないではないか。
「あー、やっぱり今気付いた?…不思議だね、どうなってるんだろ…」
今までの心配そうだった総司の瞳の色は激しい好奇心からか輝いているように見える。
ずっと触りたくてうずうずしていたのか足早に俺へと駆け寄り耳と尻尾を触り始める。
途端、くすぐったいようなそうでないような感覚が背筋を駆け抜け、その場にへたりと座り込んでしまった。
「えっ大丈夫?一くん…?」
「…ひぁ、っ…!」
……待て。
今のは俺の声か。
尻尾の付け根辺りを軽く握られ、慌てて総司を見るとかなり驚いているようで目を見開いている。
「おいおい、朝っぱらからこんなとこでか?お前らほどほどにしとけよ」
と、左之が廊下を歩いてきた。
今の声を聞かれたらしい。
…多分今なら俺は羞恥で死ねるだろう。
それに加え猫耳ときた。
……死ねる。
「うわ、斎藤どうしたんだよその耳?…尻尾まであるじゃねえか」
「……俺にもわからん。どうやら朝からこんなことになっていたようだ」
「はあ…本当に生えてんのか…?」
「…ぃっ、やめ…左之…っ」
「おっと。悪ぃ」
左之も総司と同じく好奇心を刺激されたのか俺の耳や尻尾を触る。
やはりくすぐったいので睨みつけながらニヤニヤしている左之の手を払い、立ち上がって中庭で涼もうと足を進めた。
「あ、一くん待って!」
「……なんであんたたちがついてくるんだ」
「そりゃお前のことが心配だからに決まってんだろ?」
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