BOOK〜HUNTERXHUNTER〜

□PRISON
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「お兄ちゃん♪」
「ん?」
「一緒に遊ぼー!」
「ああ。いいよ。」
無邪気に笑う幼い少女―アルカ。
少し寂しそうに笑う少年―キルア。
「何する?」
「うーんとね、」
アルカは口許に人差し指をあて考えた結果、
「しりとりー!」
「オッケー。」
「じゃあまず、『しりとり』!」
アルカの屈託のない笑顔を見ながらキルアは思う。
(どうして…こんなことに。)
(アルカは何も悪くない。…なのに…)
彼は心中の怒りを表には出さず、ただ妹であるアルカの遊びに優しく微笑みながら付き合う。
彼の脳裏には、冷徹でそれが当然のことだろうという表情をした家族の顔が焼き付いていた。
彼等のことを思い出しキルアは改めて自分が置かれている環境に嫌悪する。
(でも俺も一緒だ。結局アルカが隔離されることになっても何も出来ない…。)
無力さを悔いながらも、心のどこかで彼女が隔離されることが仕方ないと考えてしまっている自分。
それはつまり他の家族と同類だという結果に結びつく。
「ゴメンな。」
ポツリト漏らす。
「しりとりになってないよ?」
彼女は怪訝な表情でキルアに視線をむける。
その純真無垢な瞳が苦しかったのかキルアは俯いて、
「ごめん」
またそう繰り返す。
「お兄ちゃん?」
彼女が首を傾げキルアの顔を覗き込んだちょうどその時。
「アルカ、こっちについてきてー。」
無表情な顔が印象的なキルアの兄イルミが彼女にそう呼び掛けた。
彼の声は淡々としすぎていて、それが彼の冷酷さを浮き彫りにしていた。
「なーに?」
彼女は嬉しそうにイルミの方へと駆け寄る。
「今から行く部屋から一歩も出ちゃダメだからね。」
イルミは平坦な声でアルカに命令する。
隔離して閉じ込めることに何も抵抗がないらしい。
彼からは罪悪感というものが欠如しているのかもしれない。
「はーい!」
アルカは何も分かっていないようでただただ元気よく返事をする。
「…じゃあ行くよ。」
イルミはそう言うと彼女の手を引っ張るようにして歩き出す。

「アルカ!」

その直後キルアが彼女を呼び止める。
反射的に出てしまった声。
アルカを守りたいと思って出てしまった『抵抗』。
(俺が守らなきゃ!)
彼の小さくも強い意志が湧き出たその瞬間。

「キル、何しても無駄だからね。…お前には殺ししか出来ないって、そう教えただろう?」

イルミの冷淡な言葉がキルアの心を突き刺す。
それは彼の意志を粉々に打ち砕く。

「……分かってるよ。」

そのキルアの低い声にアルカがまたまた首を傾げていた。
彼女は何も知らない。
それが当然かのように。
「…行くよ、アルカ。」
イルミはまた歩き出す。
俯き悲しんでいる弟を背に。

(アルカ、ごめん。)

孤独な悲しい殺人鬼の少年はただただ何度も謝罪する。


―いつか抜け出せるのだろうか。この『牢獄』から―


end

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