BOOK〜HUNTERXHUNTER〜

□want to live
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「――ア!」

暗闇の中で誰かが叫んでいる。
最初はそう思えた。

「―ルア!」

だが段々言葉が鮮明になってきて。
誰かが暗闇の中人を呼んでいるのだと分かった。

「キルア!起きて!」

漸く自分に話しかけられているということが理解できた時、暗闇が消えた。
「………、」
“暗闇が消えた”という表現は正しくなかったらしい。
自分が重たい瞼を開けることで視界に光が射し込んできただけのことだった。
「キルア、大丈夫?」
今にも泣き出しそうな表情をしたゴンが必死に確認する。
何でゴンが辛そうな顔を自分に向けているのだろう。
疑問に思いゆっくりと視線を下へと移し自分の腹部を確かめる。
(うわ。すっげー血。)
どうやら大怪我をしてしまったらしい。
正直自分自身どうしてこうなったのか記憶がない。
ただ力が入らないので元気ではないのだと判断は出来た。
でもとりあえず、
「大丈夫だっつーの。…なんて顔してんだよ。」
そう答えて笑って見せる。
『ゴンに少しでも安堵してほしい。』
その気持ちが何よりも優先されたから。
「そうは見えないよ。何で無茶すんのさ…。」
「…ゴン。」
(…やべー。もっと悲しそうな顔させちまった…。)
ゴンの瞳からは滴が零れおちる。
「無茶するのは俺で…それを止めるのがキルアって言ったじゃないか…。」
(あー…そんなこと言われたっけか…。)
以前言われたことを振り返る。
本当にゴンは無茶ばっかりしてハラハラしたなー、なんて呑気に考える。
「…俺、別に無茶したつもりねーよ。」
そう。
無茶などしていない。
ただ…、
ただ、

「ゴンを守りたいって思っただけなんだ…。」

ゴンが死ぬかもしれないと思った瞬間、身体が勝手に動いただけ。
自分なんかよりゴンが死ぬ方が怖い。
それだけのこと。
「そんなの俺も一緒だよ?」
「…?」
「何でそんな、意味分からない、みたいな顔してんのさ。」
「…だって俺は…」
ゴンのように人を引き付ける強さや励ます力はない。
ゴンのように“光”はない。
ゴンは自分が居なくても強く生きていける。
「キルアがいなきゃ俺、駄目だよ。」
「ゴン?」
「…だから、」
ゴンは涙を拭い、
「…?おい、何―っ」
「絶対死なせないからね!」
ゆっくりと立ちあがった。
俺を背負って。
「おろせ!もういいって!俺はもう―」
「絶対生きてもらうからね!」
ゴンが言葉を遮る。
それは力強く、心強い言葉。
「………何でそんな頑固なんだよ…。」
嬉しくて嬉しくて込み上げてくる熱い感情。
それは涙となって溢れ出した。
「ほんと馬鹿だな、ゴンは。」
嬉しいのに恥ずかしくて憎まれ口をたたいてしまう。
(素直じゃねーな、俺。)
しかしゴンはそんな言葉を気にも止めず歩いている。
そして、
「馬鹿でいいよ。むしろ馬鹿のままでいいよ。」
ゴンはそう答えた後いつものように無邪気に笑い、

「だってそしたらキルア心配してずっと一緒にいてくれるでしょ?」

「…………………お前、それ無茶苦茶すぎんだろ…。」
嬉しすぎてどうすれば良いのか分からない。
だけど、ただ思う。

(一緒に生きたい。)

そして感謝する。
この無茶苦茶な少年に会えたことを。




end.
 

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