BOOK〜HUNTERXHUNTER〜

□Sixteen
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「キルアとずっと一緒にいたかったな…。」
「…ごめんな。」
「うんん!謝ることないよ!単なる俺の我儘なんだから。」
そう明るく答えたゴンの表情は寂しそうで…。
やはり彼は嘘がつけないんだなと改めてキルアは思う。
しかしだからといって、彼の傍にいることはもうできない。
何故なら、もう自分の“道”を決めてしまったから。
「そう言えばさ、よくここで修行したよね。」
「…ああ。」
「んでさ、いっつも俺がキルアに負けてたっけ。」
「でも最終的にはゴンが勝ってたよな。」
昔のことを思い返しているのか遠い目をしてキルアが呟く。
「まあ俺、負けず嫌いだからね。」
「…だな。」
彼等は顔を見合わせ、クスクスと小さく笑う。
「もう四年たったんだね。俺等が一緒にいて。」
「ああ。もう四年。随分成長したよなー。」
「ねー、中身成長してないのに。」
「それはゴンだけだろ?」
「何言ってんだよ?キルアの方が子供だろ?未だに甘い物好きだしさ!」
ブーッと頬を膨らますゴンに対し、
「いやいや。甘い物好きな大人もいるんだからいーんだよ。それより、ゴンの方が大人としては知識なさすぎだろー。」
キルアがからかうようにそう言い返す。
彼は至って楽しそうだ。
「うー、それは何も言い返せないかも。」
ゴンは苦笑しながら、人差し指で頬を軽く掻く。

彼等はもう16歳。

子供ではない。
“未熟な大人”という表現が的確かもしれない。
だからこそ、子供のように自分が今どういう気持ちなのかは表には出さない。
相手を困らせるようなことをしないように。
だがお互い表情は硬く寂しさを隠しきれていない。
それが未熟な部分。
「…今度会う時は、もうちょっと賢くなってろよ。」
「…うん。頑張るよ。」

「「………………。」」

二人の間に風が吹く。
その風はヒンヤリとしていて、二人の空間を冷たく変える。
もうそれが…、その空間こそが…、彼等を促す。
後ろを振り返らず前進するように。
「じゃあな、ゴン。」
「うん。」
「またな!」
キルアはそうゴンに告げると、彼に背を向け歩き出す。
「うん、またね!次会う日を楽しみにしてるね!」
ゴンが笑顔でキルアの背中に手を振る。
「ああ。」
キルアも手を少し上げそう返答した。
彼の返事を聞いた後、ゴンも彼に背を向け歩き出す。
彼等は振り返ることはなかった。

16歳。
彼等は各々新たなるステージへと足を踏み出す。


エンド………………


「はい!カットー!」
可愛らしい少女の声が響き渡る。
「うんうん。さすが監督・演出・脚本・ナレーター私だわさ!…あとは役者の演技力だわね。」
うんうんと首を縦に振りながら何かを呟く少女。
その少女はツインテールで瞳がくりくりしているロリータ風娘――ビスケである。
彼女は偉そうにディレクターチェアに座っていた。
「なー、ビスケ。一体テメーは何がしたいんだよ?」
キルアがぶすっとしながら彼女に近付き問い掛ける。
「…俺もあんま意図が分からないんだけど…。」
彼に続きゴンも苦笑しながらビスケに対し不満をポソリと述べる。
「何で分からないんだわさ?」
むしろ分からない方がおかしいわさ、とでも言いたげな表情で彼等を見つめるビスケ。
「はあ?分かるわけねーだろ。急に意味不明な台本渡されて半強制的に演技させられたんだぜ?これをやる理由なんて一切話されてねーよ。」
キルアは彼女の言葉が気に障ったらしく、少し声を荒げて彼女を睨む。
「理由なんて簡単だわさ。」
そんなキルアに怯えることもなく、ビスケが淡々と答える。
「そうなの?俺は全然分かんないんだけど…。」
ゴンはうーんと唸るように考えながら呟く。
キルアはというとただただ黙って怒っているだけ。
どうやら彼は考える気すらないようだ。
「…しょーがないわねー。」
そんな二人を見かねたのかビスケがため息混じりでこう続けた…。

「16歳だからに決まってるでしょ。」

「「………………は?」」
キルアとゴンは思わず声を漏らしてしまった。
一瞬、ビスケが何を言ったのか理解できなかったからである。
「………えーっと、…それが?」
時が止まったような空間が10秒程続いた後、ゴンがどうにか“遠くのどこか”から戻ってきて言葉を紡ぐ。
「だーかーらー、16歳っていう年は本当あれなの!大人の階段を上った瞬間なんだわさ!分かる?」
察しの悪い二人に対して苛立ちを露わにしながらビスケが人差し指を立てて説明を続ける。
「この貴重な瞬間を何か切ない感じで残しておきたいじゃない?うんん、ってか残すべきなんだわさ!!」
「「………………。」」
熱く語るビスケに対しポカーンっと呆れたような表情を浮かべるゴンとキルア。
両者は同じことをほぼ同時に思っただろう。

((……それだけのためにこんなことさせられたのか…。))

「じゃぁちょっともう一回最初のシーンから撮るだわさー!」
ビスケは二人の様子など気にも留めず、彼等にまた演技をするよう促す。

すると、
「「嫌だ。」」
キルアとゴンはそう一言述べると、その場からズンズンという表現が相応しい足音をたてて去っていく。
ビスケの方に振り向きもせずに…。
「…何で怒ってるの…?」
彼女はそう呟くように言うと小首を傾げた。


16歳。
それは大人には分からない繊細な感情を持ち合わせている……のかもしれない?







end.
 

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