BOOK〜HUNTERXHUNTER〜

□mosaic side
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「…ゴン。」
名前を呼んでみる。

「何?」
俺が発した声がゴンに届く。
彼は快活な笑顔でそれに答える。
何の疑問も抱かず。
(何に対して疑問を抱く?)

「……なんでもない。」
どういうことなのか。
(何が?)
どうして彼はこの醜悪な人間に対して、破顔一笑するのか。
(どうしてそんなこと考える?)
自分に向けられる顔は、そんなんじゃない。

俺に向けられる相応しい顔は、憎悪と怨恨で歪んだ表情じゃないのか…?

暗殺者としての自分。
人から憎まれ、忌み嫌われる存在。
(それは当然のことだけど…。)
だけど…
彼…−ゴンは何故自分をそんな目で見ない?
(……………。)
分からない。
(どうして?)
理解ができない。
(なんで?)
俺は人にどんな感情を抱かれても平気だ。
平然として嘲笑うことだってできる。
人を殺しているのだから。
殺人者なのだから。
健全・良識的な考えなんて持ち合わせてはいない。
(健全ってどういうこと?良識的ってどういうこと?)
でも…
…ゴンが俺に対して抱いている感情には動揺してしまう。

(それってどんな感情?)

どんな感情…?
それは、明るくて温かい感じ。
…未知なるものだから表現できない。
(それを受けて、自分自身どう思うわけ?)
尻こそばゆい。
照れくさいというか…どうすれば良いのか分からない感じ。
(それって向けられて嬉しいものなの?)
それが分からない。
(それじゃぁ、それをずっと向けていて欲しいと思う?)
思う。
それは思う。
(だったら嬉しいんじゃないの?)
……?
(ずっと向けられていたい感情っていうのは、居心地が良いってことだろ?)
……。
(それは嬉しいことじゃないのか?)
…そうか…。
(認めればいい。そのことを。)
嬉しいことを認める。
そうか。
戸惑っているままじゃ駄目なんだ。
ゴンの感情を受け入れて、それに対して初めて抱く“嬉しい”という感情を認めればいいのか。
(簡単なことだろ?)
簡単かも。
我慢するより、ずっと簡単だ。

「…なんでもないの?…まぁいいや!キルア、あっち行ってみようよ!まだ試験まで時間あるし!」
ゴンが楽しそうに笑って俺を呼ぶ。
「…ああ。」
まだ出会って間もないけど…、俺はなんとなく予想できる。

きっと、ゴンとは暫く一緒にいるんだろうな、って。
(暫く?)
いや、“ずっと”か。

まだこの“嬉しい”感情がどうして生まれたのか解せないけど…もう少しで分かりそうな気がする。


きっと。








end.
 

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