BOOK〜HUNTERXHUNTER〜

□Hero
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‐NGL編 宮殿に侵入する少し前の話‐


ゴンは暗闇の中、空を見上げる。
彼は生え茂る木々の間から星空を眺めている。
「カイト…待ってて。」
口に出した言葉が彼の胸を破裂しそうなぐらい圧迫する。
今、ゴンの心は新たな感情の片鱗によって、支配されそうになっていた。
その感情は彼が今までに経験したことのない感情で、他の感情を粉砕するぐらい強烈なモノだ。
苦痛、焦燥感、憎悪等が渦を巻いて成り立っているその感情は、いつでも爆発してしまいそうな不安定な代物である。
「絶対助けてみせるから。…何をしてでも。」
ゴンの瞳に光はない。
永遠に光を消失してしまったような真黒な瞳が彼の心を物語っていた。


―――…



キルアは暗闇の中、下を向く。
地面には無造作に生えた雑草が風で揺れている。
これから何が待ち受けているか分からず、彼は暗澹たる思いで地面を見つめていた。
「ゴン…」
彼は今までにない程の不安に苛まれている。
その不安は恐怖に近い。
自分がゴンと出会い、構築してきた関係が、雪崩のように崩れ失われてしまうのではないかと感じていた。
最近、ゴンは今までに見せたことのない表情を刹那だがする時がある。
その表情がキルアの不安を募らせていた。
彼にとってゴンは眩しく『陽』という言葉が相応しい人間だ。
だが最近は違う。
『陰』という言葉が見え隠れする表情を浮かべる。
キルアはそれを実見するたび、恐怖を感じていたのだ。
「俺、どうすればいいんだ?」
誰もいない中、問い掛ける。
答えなどないと分かっていた。
彼は自分がゴンと違い、人を窮地から救い出す力はないと自覚していた。
自分はゴンのように『陽』にはなれない。
光の見えない暗闇から人を救い出すことなど不可能に近い。
ゴンが見せる最近の表情に気付いていながらも、為す術がない。
今のキルアにはゴンの変化に対し不安を感じることしかができないのだ。
もちろんその不安を払拭できるわけもない。
では自分にできることは何か。
キルアは暫く熟考する。
複数の選択肢なんていらない。
そんなになくていい。
ゴンにとって自分が唯一してあげられること…。

「そっか。」
キルアは結論を導きだした。
静寂な森の中、彼の声が透き通る。
「……どこまでもついていく。…どこまでも。」
キルアは拳を強く握り締め、そう決意した。
救い出すことができないのであれば、一緒にどこまでも行けばいい。
その先が地獄だとしても。





森の木々は風で揺れ踊る。
人の感情を高揚させるように。
満天の星空はスポットライトのように地上を照らす。誰もが光を浴びれるように。



今宵、誰もが主人公。




end

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