祐悠

□散らかる感情
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何か分からないけど気に食わない事があって自分が制御できなくなってた。そういう時に限って、俺の部屋が俺じゃないもう一人に散らかされてた。お菓子、ジュース、脱ぎっ放しの靴下、雑に置かれた鞄、ぐちゃぐちゃなプリント、それらに囲まれて寝転がる祐希。足の踏み場がないってこういう事を言うんだと思う。

面倒だから無言のまま彼の作った世界に足を踏み入れたら、「あ!ゆうた今俺の携帯踏んだ」とか。たしかそのような事を言われた気がする。かまってちゃんな祐希は至っていつも通りだったのに、俺は苛々していたから、そのいつも通りが妙に腹立たしくて。祐希がだらしないのが悪いんだよ、とかその程度で済ませば良かったのに俺は。


「ほんと、祐希ってそういうとこ嫌い」


苛々に任せてつい口走った言葉。言葉にしてから分かったけど、俺の声がいつもよりも格段に低かった。一瞬で空気が凍った、というか重くなる。祐希は俺の足元の近くに落ちてたケータイだけ拾って何も言わずソロリと部屋を出た。俺はスッキリしたのかまずいと思ったのかよく分からないため息を吐く。


(違うんだ、祐希は悪くない、ここに落ちてて俺に踏まれた携帯のせい、)

(なんで片付けていかないの、祐希ひとりの部屋じゃないんだよ、なんで黙っていなくなるの、)


自分の中にふたりの人間がいるみたいな違和感がする。気持ちが交錯して自分が混乱してる。不安定なんだ。あぁ、ぐるぐるしてる。





――最近、考えてたことがある。幸せってなんだろう、とか。俺と祐希、とか。確かに祐希は俺の事を恋愛対象として好き、と言って、俺もそれに応えた。俺も祐希を好きだから、キスもしたし体も重ねた。


だけど、それはすごく、一時的な事のような気がする


今はよくてもこれが俺と祐希のためになるのかといったら、ならないとしか言い様が無い。それは祐希と付き合う以前から分かってたことだし、覚悟してた、はず

なのに、俺が今苛々してるように、時々どうしようもなく虚無感に襲われる。あとは、ひたすら、後悔ばかり。


報われない、誰も。
でもそんなこととっくに気付いてた。気付いてたのに気付かないフリしてたんだ。そしたら俺は正直に君を、祐希を、愛せると思ったから。
だけどたまに思い出す。俺らがどんなに悲しい人間なのかを。自分達がどんなに道を外れているのかを。

普通じゃないのを選んだ俺が悪い
付き合うなんて選択肢がそもそも馬鹿げてる
俺も、祐希も報われないのに


別に別れたいとかじゃない、別れたくない。けど、こんな関係、いつまで続けるの?いつまで続けていられるの?


考え始めたら止まらないまま、俺は周りにあたっていた。それは、祐希も含めて。はぁ、弱いなぁ。全部ダメになっていく。

そんなことを考えながら先程まで祐希が寝転がってた場所で三角座りして、携帯を無意味に開いたり、閉じたり。全部疲れた。全部ダメだよ。分からない。

散らかり放題なこの部屋と同じように、俺の気持ちはどれが本当なのか分からない。





その時、携帯が鳴る。画面を見ると、祐希からだった。とても会話する気にはなれないのに通話ボタンを押し、耳をあててる俺って何なんだろう



『…ゆうた?』

「…………なに」

『ほら、俺の携帯壊れてないよ、これでまたいつでも悠太の声が聞けるね。よかった』

「………」

『ねぇ、まだ怒ってるの?俺のこと、嫌いになっちゃったの…?』



寂しげな声で聞かれた瞬間、心臓がズキンとした。祐希の口から“嫌い”って言葉が出たのが怖く感じた。

違う、嫌いなんかじゃない、好きだから、好きで好きで大好きだけど、祐希の枷になるのが嫌だから。そう返したいのに何も言えずにいたら、祐希は続けた。


『あ、でも悠太が俺を嫌いでも、俺はずっと悠太が好きだからね。』

「違う、俺は祐希が好き…だよ」

『あ、そうなの?良かった、嫌われちゃったかと思った』

「好きだけど…『悠太さ、何かくだらない事考えてない?俺はずっと悠太が好きだ、て言ったじゃん。これ意味分かる?』


突然心を見透かされたみたいな言葉。意味なんて知らない、俺らの恋にもともと意味なんて無いじゃないか。


「…分かんないよ。同性で双子で家族なのに好きなんて馬鹿みたい。俺も祐希も馬鹿なんだよ。報われないの知っててなんで告白したの、なんで恋人なの、なんで抱くの。意味なんて無いのに、分かる訳、ない」

まるで台風の時に窓を叩きつける雨みたく俺の気持ちが言葉になってく。

「兄弟とか…普通じゃないよ、もうやだ」

『ゆうた、』

「俺は苦しいよ、辛いよ『ゆうた!』





気付いたら、冷たい何かが頬を伝う感覚がした。俺から溢れるのはいつも悲しくて虚しいものばかりだ。苛々した気持ち、ぶつける言葉、冷たいだけの液体


ばたん、


扉が開く。そこには祐希がいた。いつもと変わらない祐希が。「祐希」と声を出す前に、祐希は携帯を投げて咄嗟に俺の横にしゃがみこんだ。

祐希は俺を抱き締める。痛いくらいに、抱き締める。


抱き締めながら、「俺は馬鹿でいい、だけど好きなんだ、好きなんだ。どうしようもなく悠太が好き」と、耳元で君は言った




ただ。
俺にはそれが、「好きでごめん」と祐希が俺に謝っているようにしか聞こえなかった。

俺が祐希にそうしたいように、




(…だけど、許せない。俺は許せない。祐希を好きでいる俺が、俺は許せない)

また、散らかってしまう、感情。


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