祐悠

□明日も起こしてね
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※黒い祐希。









 いつも一緒にいて、いつも隣にいる唯一無二の存在。俺よりずっと大人な悠太のことは、俺は普通に好きだった。そう、普通に。双子だというだけで初対面の人達からは特別な視線で見られることもしばしば。慣れない頃は名前を間違えて呼ばれることもあって。俺に近寄ってきて、悠太くん、なんて。


 複雑な気持ちだ。俺は通常面倒臭がりで他人への興味もあまりない気質だけど、俺に向かって悠太くんと話し掛ける人は要するに。俺の隣にいるはずの悠太に用があるわけで。


 その時感じるよく分からない不快感。ほんの一瞬だけ、自分が分からなくなる瞬間がそれだった。あとから気付いたけど、簡単に言えばこういう気持ち。



 ―――目的とか用事とかはどうでもいい。けど、俺の悠太だから、とらないで。






 生まれた時から悠太は俺のものだし、俺は悠太のもの。それなのに女子にチヤホヤされてる悠太が気に食わない。時たま俺を悠太と間違える女子が、気に食わない。


 悠太はいつも誰にも優しいからって周囲は何を自惚れているの。先生に偉いわね、と褒められるためでも女子にかっこいい、と言われるためでもない。悠太がもともと持っている、ひとに対する優しさ。それをバカな人達はもしや自分に気があるんじゃないかなんて勘違いして。



 そういうのが、いちばん、ムカつく。ばっかじゃないの、悠太は最初から俺だけのものなのに。アピールとかしちゃって無駄な努力。


 君たちは悠太を何も知らないからそんなことができるんだよ。俺は悠太を知ってる。悠太が何をするのが好きなのかとか、悠太の寝顔のめちゃくちゃ可愛いとこだとか、悠太がどれだけ俺を世話してくれてるのとか、ぜんぶ知ってる。はい俺の勝ち。もともと君たちなんかに勝ち目はないの。生まれた時から、俺の、勝ち。






「………ねぇ、悠太」
「……………ん」
「これからもずっと、俺だけの悠太でいてね」
「…………………」






 夜、なんとなく呟いた言葉に上の悠太は応えない。寝ているのかもしれない。だったらいいんだ。悠太が寝ているんなら俺も寝るよ。俺の独り言なんか、聞いていなくていいよ。寝ていてください。おやすみ。













明日も起こしてね
(ほんとは寝ていたんじゃなくて応えられないだけで、イエスなんて答えは嘘になるから何も言わないだけで、ノーなんて悠太には言えないだけで、)
(全部知ってるけどお互いに気付かないフリをして、朝になったら悠太は俺を当たり前のように起こしてくれる、けど)
(……けど、この勝利は、俺には苦しい)



20110518

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