DQ

□awakening
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※勇者とミネア

「この町で有名な占い師って、あんた?」

夜のエンドールで突然後ろから肩を叩かれた。かすれた弱々しい声だった。ミネアが振り向くと、そこには疲れ果てた様子の少年がいた。ぼろぼろの服を着て、なんとかそこに立っているような、少年だった。

「えぇ。占って差し上げましょうか」
「いや、占いはいいんだ。ちょっと聞きたい事があって…」
「聞きたい事?」

少年は力なく頷いた。目と目が合う。彼の目にはクマが出来ていて、瞳は赤くなっていた。散々に泣き明かした後なのだと、見るからに分かるくらいに。彼は縋るような声色で聞いた。


「夢は、いつか覚めるよな?」


いつもは夜も騒がしいはずのその町が、一瞬でしんと静まり返った、ような気がした。少年の顔は真剣だったが、またすぐに崩れてしまう脆さが潜んでいた事にミネアは気付いていた。数秒の沈黙の後、ミネアは彼を直視して告げた。

「…それが夢ならば、必ず」
「あぁ、そっか。…そりゃそうだな」

無理矢理に口角を上げる。瞳から溢れ出そうな光をギリギリで押さえ込んで、彼は「ありがとう」と言った。中身の無い感謝だった。

ミネアはこの少年に、他の人とは違った異質な何かを感じた。あらゆる闇を払い、人々に光をもたらす力。それは未だ彼の中に眠ったままではあるが、いずれ強大なものになるという未来が、ミネアには見えた。

(もしかしたらこの方は…)
そこまで考えた時、もと来た道を引き返そうとした少年を見てミネアは焦った。

「こんな夜更けに、どこへ向かわれるのですか」
「村に、帰るんだ」
「しかし、夜は魔物が多くなりますよ。それに、あなたは…、」
「もうそろそろ夢から覚める頃なんだ。今、行かなくちゃ…」

今行かなきゃもう二度と…。こんな悪夢、もう散々だよ。

震える声。のそのそと歩き始める彼をミネアが引き止めようと、咄嗟に手を伸ばした。掴んだのは虚空だった。

彼が倒れた時の音は、柔らかかった。浮いているように立っていた少年は、ふわりと舞い降りるように倒れた。ミネアは急いで彼の安否を確認した。彼は泣きながら、死んだように眠ってしまった。

「勇者さま…」

きっと、何日間も彷徨い続けたのだろう。その間は飲まず食わずだったのだろうか。ミネアには分からなかったが、少年がここ数日間全く眠ってなかったのだろうということだけは分かった。

ミネアは彼を哀れだと思った。何故ならば、次に目覚めた時、彼は受け止めなければならない。

これが夢ではなく、現実なのだという事を。少年に課せられた使命を。勇者として目覚めなければならないという事を。

目の前の少年は、ただ泣いていた。

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