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戦場のメリークリスマス
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真っ白な銀世界。

しんしんと降る純白の粉雪。



そんな美しい銀世界には不釣り合いな戦いが、今この場所で行われていた。





自分を狙って攻撃する戦車を破壊しようと、膝に仕込まれてるマイクロミサイルを放つアルベルト。
彼の身にまとっている防護服に、白い粉雪がチラチラと舞い降りる。



「くそっ…!キリがないな…」



複数いる戦車やサイボーグマン達を次々と破壊していくも、戦いの終わりは一向に見えてこない。
アルベルトは舌打ちをした。



と、その時だった。



「ママー!ママー!」




!!




遠くの方から微かに聞こえる母親を呼ぶ子供の声を、アルベルトは聞き逃さなかった。
その声が、だんだんこちらへ近付いて来るのがわかった。



「ママー!どこー!?」



近づいてくる幼い女の子のすすり泣く声。
アルベルトが横を振り向くと、その姿が目に入った。

その女の子は、レインコートを着て長靴を履いてこの広い銀世界を歩いていた。
恐らく彼女はこの戦場の地で、両親と剥ぐれてしまったのだろうとアルベルトは思った。



と、アルベルトが余所見をしてる隙に、なんと戦車は女の子を狙ったのだ。
それに気付いたアルベルトは、ハッとして慌てて彼女の元へ走った。



「危ないっ!!」



アルベルトはすかさず彼女を抱き抱えると、その場から離れて行った。
女の子を守るアルベルトの背後で爆発が起こる。
その衝撃で雪も飛び散った。
間一髪、アルベルトは女の子を守ることができたのだ。

アルベルトは安堵の息を吐いた。
だがその反面、彼は女の子を守って逃げる途中悲しい事実を目の当たりにしていた。





女の子の両親と思われる二人の男女の死である。





恐らく二人は戦車、もしくはサイボーグマンの攻撃に命を落としたのだろう。
真っ白な雪の野原の上に並んで倒れていた。





かわいそうに…

この子は両親が亡くなる前に剥ぐれてしまったんだな。

残酷だが、このことは黙っておいたほうが良さそうだ。






そんなことを思いながらすすり泣く幼い女の子を慰めるアルベルト。



「大丈夫だ。ママやパパはきっと帰ってくる。だからもう泣くんじゃない。」



アルベルトは微笑みながら彼女の頭を撫でてやる。
すると、女の子はしゃくり上げながら問いかけてきた。



「…おじさん、誰?」

「アルベルトだ。アルベルト・ハインリヒ。」

「あるべると……はいんりひ………?」

「そうだ。お前さんに泣き止むまじないをかけてやる。」



微笑みながらそう言って、アルベルトは女の子に飴玉を二つプレゼントした。



「俺からのささやかなクリスマスプレゼントだ。」



それだけ言うとアルベルトは微笑みながら彼女の頭を再び撫でてやった後、真っ白な雪の野原の中へ姿を消した。

そんなアルベルトの姿が脳裏に強く焼き付いた彼女は、大人になった今でもこの時の出来事が忘れられないでいた。

そして現在、この過去の出来事がキッカケで、彼女はアルベルトを意識し始めた。
もちろん、アルベルトがそれに気付くはずもないと知っておきながら…




彼女にとっては、人生初の戦場のメリークリスマスだった。




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