飼育日記


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『臨也 あなたいい加減に帰ってきなさい』

携帯電話から響く冷たい声。

「いやぁ、俺も帰りたいんだけど 帰るに帰れないんだよ」

あはは、と空笑いしながら通話口に声をかける。

『それどういう意味よ』

「そのままの意味だよ」

波江の声に若干の苛立ちが混じる。いや、本当の事だし。

『分かりやすく且つ詳しく言ってくれるかしら』

「猫化したの」

『は?あなた何言っ 』

ピッ
もう説明が面倒くさいから強制的に通話を切る。

ツーツーとなる携帯を片手にすごく不機嫌な顔をしてる波江の姿が目に浮かび、ぷっと吹き出してしまった。

それを横で見ていたシズちゃんがどうした?と顔を覗いてきたので何でもないよと笑った。

揺れる犬耳がその声を感じたのかひこひこと動き、そうかと言って自分の寝床(押し入れの前の敷布団)に潜り込んだ。

帝人くんは学校に行ったみたいだね…
携帯電話のデジタル時計を見ると10:02とある。

うん、波江さんには10時に来るよう言ってあったし、今日来てみて居なかったから電話してきたんだね。

うん、まぁ、今の俺にはどうにも出来ないんだけど…
大体帝人くんが居ないとこの部屋から出る事もままならない。

出るためにはシズちゃんと肩車的な事しなきゃなんないのだろう。

シズちゃんが下で俺が上。
絶対拒否られるな、うん。

さてと、取り敢えず帝人くんが帰ってくるまで寝ようか、な…

敷布団の空きスペースにひょいと軽く跳躍し、ぼすんと寝転ぶ。
ああ、柔らかい…大好きな人の匂いが鼻をくすぐる。

…ああ、もう…寝よう。







俺はこの平和な一室に迫り来る存在に気づかずに眠った。






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