Novel

□Human'shart
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1.泣かないで

『泣かないで、君が泣いてしまうと、僕も悲しくなるから…。』

ここは、とある学校の教室。
そこには、1人の男子と女子がいた。
女子は椅子に座り、ハンカチで顔を隠しながら泣いていた。
男子は、そのすぐそばの机に寄り掛かっている。
その足下には、女子の鞄らしきリボンが付いたスクールバックと男子のものらしきスポーツバックが置かれていた。

ぽろ。ぽろ。ぽろ…。
さっきから、君は涙を流していて僕が理由を聞いても何も答えてくれない。
ただ、君の目から次々と涙が溢れるばかりだ。辺りは、僕と君だけで君のすすり泣く音しか聞こえない。
このままでは、埒が明かないので僕は意を決した。今、自分が思っている事すべてを吐き出してしまえ。もう、やけくそだ。
僕は、君の方を向く。そして「なぁ…本当に何があったんだよ。その、あの…あれだよ。おまえが泣いてると調子が狂うんだよ。だから…。」
ぴくっ。
君が、少し反応して軽く上体を動かす。やっと、聞く気になったのだろう。
僕は、それをちらっと見た。そして…
僕は、君の涙なんか見たくないのに…。
僕がいろいろと思い悩んでいる間に刻々と時間が過ぎていく。
ふと窓の外を見ると、さっきまで校庭を照らし続けていた太陽が、もうその役目を終えたのか、沈みかけようとしていた。
辺りはだんだんと薄暗くなる。
カチカチカチカチ…カチッ。
時計の針が7時を指す。
僕は、君に気付かれないように軽く溜め息をつく。
そして、もう一度君に聞く事にした。
「なぁ、今日何があったんだよ。」
「………。」
君からは何も返事がない。無言だ。
「だから、ずっと笑顔でいてほしいんだよ。もう、おまえの泣いている姿なんか見たくないんだよ!」
言い切った。僕は言いきった。
僕は、本当に君が笑顔でいてほしいんだ。ずっと、笑っていてほしいんだ。
それは、僕のわがままかもしれないけど、そうしてほしいんだ。
僕の思いが通じたのか、君はゆっくりと上体を起こしてまっすぐに僕を見る。
そして、泣き顔が恥ずかしいのかハンカチで顔を半分隠している。
だが、瞳はまっすぐに僕を見ていた。
「本当に?」
君は、少しかすれた声で聞く。
僕は、うなずきながら
「本当。だから、ほら泣きやめよ。」
僕は、ぶっきらぼうに君が持っているハンカチを奪い取って涙をぬぐう。そして、僕がそれを終えハンカチを離すと…君は笑っていた。いつもの君の笑顔。
僕は、ドキッとした。
そして、その事に気付かれないように
「ほら、行くぞ!」
と、無理やり腕をとって立ち上がらせる。
「えっ?行くってどこに?」
君は目をぱちぱちとしてたずねる。
僕はぶっきらぼうに
「アイス屋だよ。ほら、おまえ好きだろ?今日は俺のおごりだ。ほら、早く行くぞ!」
「えっ、ちょ。かばん!」僕は、足下に置いてある自分のかばんと彼女のかばんを持った。
「…もう。」
彼女は、少しあきれたが
「じゃあ…アイス、トリプルがいい♪」
と僕の顔を向いてニコッと笑った。
それを見て、僕も自然と笑顔がもれた。

君が笑った。
君は笑顔が一番だ。
泣いている顔なんて似合わない。
誰だって、泣き顔より笑顔の方が良いんだ。
だから…泣かないで。
END
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