無双

□EPISODE 5
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「御神流・徹!」

「カハァァァアアア」


 師宗の首筋に、木刀が宛てられるが、師宗は恭也の首に今にも食い付くところであった。

 恭也が木刀を回収してから攻撃するという二段階のアクションを取るという動作が必要だった故の空白の時間は、師宗には十分過ぎた。


「そこまで!」


 美由希の合図とともに、恭也も師宗も離れる。師宗は、巻き付いた糸から手を抜く。束縛用の技なので、普通はそう簡単に抜けるものではないはずなのだが。


「おお、ちょうど引き分けが八〇〇〇になったよ!」

「そうか」

「あ゛あ゛?」

「ええー、もうちょっと反応しようよ……」


 師宗も、恭也も、数になど興味はない。重要なのはそこではないのだから。そんなものではないのだから。


「お兄ちゃんも師宗さんもすごいっ」

「なのはのお兄さんってこんなに強かったんだ……」


 どこか呆然と、フェイトが呟く。なのはが強いことも、師宗がすごく、とてもとても強いことも知っていたが、それだけだと思っていた。

 けれど、納得だとも思える。


「師宗、お前は一体、半年間何をしてきたんだ?」

「え……?」


 汗を拭きながら、恭也の目が細められる。思えば、そうだ。なのはは勿論、高町家全員が師宗とは連絡を取ることが出来なかった。

 その間に何をしていたのか、何をしたのか、何も知らない。

 師宗がどこでなにをしているのか。それを把握するのは困難極まる。全ての被害が出た後でようやく師宗が、世界最強がいたと、そう分かることなどざらにあることだし、最後までそうと気付かないこともやはり多い。

 けれど、その言い方はまるで、師宗が弱くなったような言い方ではないか。

 なのはは視線を師宗に向ける。

 強い、師宗。なのはの知る、誰よりも、だ。

 その師宗が……


「なにをしたぁ? 恭也てめえ、それを知ってもいいと、思ってんのか? 俺がてめえに喋るとでも超絶に思ってんのか? あ゛あ゛?」

「……碌でもないことなのは確かだな。お前がそれだけ強くなっていれば、細部は分からずとも、予想は出来る」

「……あ、そういう……」


 逆。逆、なのか。けれど、それだと、恭也と引き分けているのは、おかしい。そういった旨を、なのはは言う。


「俺たちがしてんのは試合だ。死合じゃねえ」

「全力で、本気で、手加減をしているんだからな。こいつは」


 師宗の癖と言うべきか。自分よりも弱い人間と戦う時、相手よりも少し強い程度の強さで戦う癖がある。

 相手の強さを最大限まで引き出すために。満たされないものを満たせる可能性を少しでも高めるために。

 そうでもなければ、フェイトも恭也も今ごろ原型が残っていないだろう。鍛練にはこれ以上ないくらいの相手だ。


「ここ暫くのこたぁ詳しくは話せねえ。まあ、目的くらいはその内言ってやらあ」


 今言わないんかい。そんな突っ込みを内心で全員がしたと同時に、桃子から朝食の準備が整ったと知らせが来る。図ったようなタイミングであった。


「ねえ、ユーノくん」


 賑やかな朝食の後、庭に出たなのはは、フェレット形態のユーノに声を掛けた。


「なんだい、なのは」

「あの、ちょっと魔力を使ってみたいんだけど……」

「……? なんで? 例えるなら今のなのはは、喉を枯らしているような状態なんだ。そこで無理に声を出すようなことはあんまり、薦められないんだけど……」

「お願い。ちょっとだけでいいから」

「まあ、いいけど……」


 少しくらいならば、問題はないだろう。喉を痛めていても、自然の範囲で声を出す分には問題はないだろうし。それに、なによりも、ユーノはなのはに甘かった。


「……………………」


 集中する。自分の体の中に巡る力。確かに感じるそれを、胸元の辺りで翳した掌に持ってくるようなイメージを抱く。

 桜色の魔力が球状に集まって行くが、それは確かな形になる前に、空気に溶けるように霧消してしまった。

 吸われた魔力が戻っていないということの証明であり、何よりも、なのはのサポートをしていたレイジングハートがいないことによる弊害でもあった。




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