無双

□EPISODE 4
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 人類として大きく間違っている食事を披露した師宗は適当に辺りを回り、家具が無いことでより広く見える部屋の中に白色と橙を見つけた。


「ん? なんだあてめえら、【そっち】なのか」

「あ、本当だ。可愛い〜」


 懐かしきフェレットモードのユーノと犬形態のアルフ。ユーノは慣れ親しんだそれだが、アルフは大柄な体躯ではなく、小型犬ほどの大きさになっていた。

 顔付きや体付きを見ると、子犬になったと言う方が妥当か。


「新形態子犬フォーム!」


 本当に子犬のようだった。ただ、アルフの年齢を考えるとむしろこっちの方が正しい姿のようにも思えてくる。

 使い魔であるということは主人よりも年をとっていると言うことは無い。そして、フェイトの肉体年齢と稼働年齢は一致していない。

 と、師宗はある事に気付く。動物は人間と同じ速度で成長しないことに。犬は一年で成犬になるのだ。そうするとアルフは既に成犬(大人)になっている。


「あ゛? あ゛あ゛? あ゛あ゛?」

「なんか師宗から煙が出てるよ?」

「なにか慣れてないこと考えたんじゃないかな」


 変なところで鋭いのに変なところで馬鹿。まあ、基本は紛うことなき馬鹿なのだが。


「ハッ……! アンタまさか、この状態の私にでも欲情するんじゃ……!」

「ん……? あ゛あ゛、流石に子供には手ぇださねえよ、超絶に欲情はするが」

「変態だああ!」


 満たされない。そのせいか、師宗は色々なもののストライクゾーンが広い。ボールが無いくらいに広い。そして自重しない女誑しである。


「失敬だな。ならなんだあ。ロリを笑って殴れってかあ?」

「普通の感情ってもんは無いのかい!? ロリっていうな! ていうかアンタ、笑って子供殴り飛ばせる男だろ!」


 事実だった。笑いながらフェイトを蹴り飛ばしたりしていたし。


「……なのはちゃんたちかなり危ないところにいるんじゃあ……」

「オイオイ、人の話聞いてたかあ? エイミィ。ガキにそんなことしねえつーの」


 因みに、高町家からはなのは(というか少女全般)が結婚可能年齢になるまでは【そういうのは】禁止という御触れが出ている。ぶっちゃけそれがなければ今頃なのはもフェイトも美味しく頂かれていただろう。

 そもそもそう言われるまでそれが悪いことであるという自覚が無かったというから恐ろしい。


「んで、ユーノはなんでその格好なんだ? なのはになんかしようってえなら……」

「いやいや、なのはやフェイトの友達の前ではこっちの姿でないと」


 師宗の危険な雰囲気。エイミィはヤバいのではと思ったが、ユーノは良くも悪くも――つまり、悪くも。慣れている。

 頭を掻く世にも奇妙なフェレットの図がそこにはあった。


「面倒だなあ……いっそ魔法とかばらしちまえばどおだあ?」


 アリサもすずかも受け入れるだろう。三人娘の中で最も常識人のアリサは突っ込みながらも。

 自身が【そういったもの】に近いすずかは苦笑いしながらも。


「ダメだよ、師宗さん。原則管理外世界の住人に魔法のことを教えちゃいけないんだから」

「今更超絶に説得力皆無だなオイ」

「あ、やっぱり?」


 万年人材不足の管理局は使えるものは使う主義、管理外世界の住人であろうとも、魔導師の適性が高ければ、ぐいぐい引き抜く。


「まあ、なのはにしろフェイトにしろ、魔法に関わり続ける事になるんだろおが」


 元々魔法文化を知っているフェイトはともかくとして、やはり問題はなのはなのだろう。ある日突然手に入れた強大な力。何もなければ決して開くことのなかった才能。

 力は人を狂わせる。今のなのはは才能があるが故にもて余している状態だ。メキメキ実力をつけてきているなのはだが、それでもまだ振り回されている。

 まだ一年もたっていない。たったの一年も経っていない。

 なのはは酷く危うい。危うく、脆い。


「……少しばかり目ぇ離さねえようにしておくか」


 そうしてしまった責任は師宗にあるのだから。


「ごめん……」


 師宗……というよりは、その後ろにいる士郎が、出来ればなのはが普通の暮らしを望んでいたことをユーノは知っている。そして、切欠(元凶)であるということも。

 師宗は、【普通でいてもらいたい】というのが押し付けであることを知っている。そして、その気になれば魔法から離れろと命令出来ることも。師宗が黒と言えば白ですら黒にしてしまうなのは。これでいて、それなりに心遣いはしていた。


「気にすんなあ。てめえを責める気なんざさらさらねえし、責めたところでなあんにもならねえからなあ。んなこと言ってたら、最終的にゃあ俺は世界を滅ぼさなきゃいけなくなる」

「それは、割りと冗談じゃすまないかな……?」


 世界を平然と敵に回す師宗の図をその場の全員が思い浮かべた。ミソなのは全員が全員師宗の負けを幻視できなかったことである。


「わあ……! アルフちっちゃい……どうしたの?」

「ユーノくんもフェレットモードひさしぶりー」


 と、ここでなのはとフェイトがやってきた。子犬化したアルフをフェイトが抱える。

 いつもよりもふかふかとした毛皮に指が沈む。


「かわいいだろー」

「うん」


 顔を舐められるフェイトに続いてなのははユーノに手を伸ばそうとしたが、ユーノは逃げていってしまった。


「あれ、ユーノくん?」


 嫌われるようなことをしたか……なのはが少し凹んだ時、ふとある可能性に気付き、そっと後ろを見る。


「……………………!!」


 無言でとんでもない形相をする師宗がいた。


「もー! 師宗さん!」

「あ゛あ゛ん? オ前超絶ニ俺ノモノ。アレ男。分カル?」

「なんで片言かは分からないの」


 気分、であろう。こういった時の師宗の理由なんてその程度である。


「……ホントだ」

「あ゛?」


 フェイトの呟きを耳敏く師宗は拾う。その気になれば、キロ単位で聞き分けられる聴力を持っている師宗。地獄耳ここ際まれり。


「師宗さんって、変に可愛い時があるって」


 可愛い。大男に言う台詞ではない。


「オーケーフエェェェエイトォォオオオオオオ」

「え、ええ? な、なに?」


 フェイト・テスタロッサ。狭く閉鎖した世界で生きてきた彼女は対人能力というものに著しく欠けていた。

 直接的な罵倒というものは悪いことであるという知識はあったが時と場合によってはそれ以上に不味い【地雷】というものを知らなかった。

 そして、その恐怖をその身をもって知ることになる。


「さあああて、冴え渡る第六感によって徹底的に擽てぇぇえええ、お前泣いて謝ってもぉおおおやめなあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛い」

「ヒッ……! 師宗さ……」



 間。



「……………………」

「フェイト? フェイト、ねえフェイトってばあ! ちょっ、返事しないよ!?」


 時折ビクッビクッと動くフェイトの姿がそこにあった。どう見ても犯罪現場でしかない。本人がそう思えば、セクハラは成立するのである。

 だがしかし、そんな理屈など丸で通じることがないのが師宗である。


「にしても驚いちまったぜえ? なのはぁああ。てめえ、俺のことを可愛いなんて思っ(そんな目で見)ていたなんてなあ……」

「あ、謝ったら許して――」

「貰えると思っているんなら、脳味噌輪切りにした方がいいだろおなあ」

「や、やっぱり……?」


 人のものとは思えない、生理的嫌悪感を刺激する動きをする手は今のなのはにとって死刑宣告の何者でもない。

 エイミィを見る。目が合う前に逸らされた。仮に立場が逆だったら、なのはも同じことをしただろう。


「みゃ、みゃぁあぁあああああああ!!」




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