無双

□EPISODE 3
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 一方、師宗から無事、とはとても言えず、命からがらといった風体で逃れたヴォルケンリッター達はとある辺境の無人世界に現れていた。

 無人世界。その名の通り、人に分類される生物のいない世界のことである。数多の世界から成り立つ次元世界。それらは一般的に管理局が定義した三つの種類に分けられる。

 次元世界を渡る術があり、管理局との繋がりを持つ管理世界。

 次元世界を渡ることは出来ないが、人の住む管理外世界。

 そして、人のいない無人世界。

 当然のことながら、無人、管理外、管理の順でその数は多い。ランダムな転移をすると、大抵無人世界に辿り着く。熱帯雨林が延々と続くここもまた、そんな世界の一つだった。


「……手足はあるか?」


 開口一番のシグナムの台詞はそんな言葉だった。


「ある」

「あるぞ」

「あるわ」

「そうか」


 五体満足。襤褸巾のような姿だが、それでも、生きている。シャマルの魔法で回復しながら、誰もが思った。


「いくら何でも、世界を越えてまで追ってはこまい」


 魔力もない、技術もない。あの世界自体には世界を渡る方法はないことをヴォルケンリッターは【この半年】で知っている。


「ホント、なんだったんだアイツ……あの世界の住人なのか? そもそも人間なのか?」

「人間だろう。魔力の無い、な」

「あたしのグラーフアイゼンが……」


 ヘッド部が無くなり、柄の途中からごっそり無くなった鎚、グラーフアイゼン。一目で修復は不可能だと分かった。


「……恐らく、報復なのだろう。お前が襲った少女のデバイスは中破していた。だから、というのもあるのではないか?」


 本人がそれを自覚しているかどうかは――別として。切欠であり、最も少女、なのはを傷付けたヴィータに対する当たりが強かったのは納得出来る。


「……発端は我々だからな……何をされても文句は言えまい」


 ザフィーラが指の動作の確認しながらそう言う。自分達の抱える理由はどうあれ、何の罪もない年端もいかぬ少女から魔力を襲取した事実には変わりが無い。


「そうね……誰から恨まれても、憎まれても成し遂げるって決めたもの――治療、終わったわ。ヴィータちゃんのグラーフアイゼンはリロードしましょう」

「すまねえ……あたしが不甲斐ないばっかりに」


 ヴォルケンリッターとそれに附属するものは、死亡、破損しても何度でも喚び直すことが出来る。勿論、ノーリスクとはいかず、それなりの対価が必要となる。彼女達が集めているものな訳だが。

 デバイスは軽く出来ないくらいには容量を食らう。ヴォルケンリッター達本人ともなれば更なるコストを払うことになるので多用は出来ない。だからシャマルがわざわざ治癒魔法を使っていた。


「しかしあの男、どこまでも他者のために憤っていたな。それなりに長く人間というものを見てきたが――あんなにも真っ直ぐに他人を想う人は初めて見た……あれが強さと言うものなのだろうな。また、会ってみたいものだ」


 やることは無茶苦茶で、発する気は暴力的であったが、根底にあるものは純粋だった。


「……内臓を潰されておきながらよく言えるな」

「あたしは二度と会いたくねえ」


 と、ヴィータはシグナムの雰囲気が妙なことに気付く。今まで見たことのない表情。その種類にも、至る。


(いやいや、有り得ねえだろ。三度の飯や百年の恋よりも斬り合いの方が好きな戦闘狂(バトルジャンキー)が!?)

「ほぅ……」


 悩ましげな吐息。


(ガチだ――――ッ!!)


 ヴィータの内心の叫びは、心中ではそれはそれは高らかに響いた。

 大声を出すと、傷に響くもの。




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